卒論の講評

加藤紗奈美
ドーナツ店での接客業務の参与観察記録から、ログに出現するくりかえし言葉と状況との関係性について探索しました。客のポジティブな態度変容が、複数回の相互作用やクレーム時の謝罪の迅速さと関連することを実証しています。厳密な記録と量的・質的な分析に基づく力作に仕上がっています。

渡部里緒奈
個人財としてのソーシャルキャピタルが豊かな人ほど、鉄道の安全性に対して協力的な態度を持ち、歩きスマホなどを控え、結果として鉄道の安全に積極的に貢献しているという仮説を計量的な社会調査によって見事に実証しました。

澤田みずほ
D. Tannenのコミュニケーションにおけるジェンダー差に関する原著の読解をもとに、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションにおけるアカウントの使い分けと、アカウントの放棄(リセット)に注目し、大変に魅力的で新規性のある社会学的分析を行っています。

金森春音
京都市上京・中京・下京の1272の自治会を対象にした京都市の社会調査項目と、地域における空き巣認知件数との関連性を実証的に分析しました。その結果、低犯罪地域では、地域の高齢化への問題意識の高さ、児童見守り・交流活動の熱心さ、近隣が葬儀を手伝う、などの共有材としてのソーシャルキャピタルの豊かさが特徴的であることを実証しました。

佐々江花菜
京都市中京区星池町内の4地区でのインタビュー調査をもとに、地蔵盆の簡略化に影響を及ぼす人口動態的な要因(少子化による寄付金の減少)と、地域組織の役員の特徴(働き盛り層ほど時代の流れに適合的・合理的な対応をしている)との関係を社会学的に明らかにしています。

佐藤大軌
2011年以降、プログラマーでは、年齢・勤続年数・収入において大企業と中小企業で格差が拡大しているが、システムエンジニアでは、企業規模間の格差がプログラマーほど二極化してはいないことを明らかにし、その理由を内部労働市場が形成され多様なキャリアパスが活かされているためではないか、と考察しています。自らのキャリアの進路を社会学しています。

セツシン
複数回にわたる克明なインタビュー調査に基づいて、中国福建省から来日する留学生の変化(就学・就職への態度)がは、景気や日中間関係の緊張よりは、むしろ東日本大震災による影響(留学先としての日本の魅力の低下)の方が大きいことを説得的に示しています。

稲本朱珠
文系学部の今出川校地への移転が、地域内の飲食店の経営に与える影響について検討を行いました。その結果、昔からある飲食店では、近所や昔からのなじみ客が固定客層となっており、大きな影響がないこと、学生客増は大型チェーン店の出店によってその需要が取り込まれていること、さらに個人経営の飲食店を利用するよりは「コンビニで買って、学校で済ませる」という学生のライフスタイルの変化も見逃せないことを指摘している。その中でも個人経営の飲食店とは学生と店主との新たな個人的な関わりが産まれる可能性について言及しています。