卒論の講評

西本和樹
意思決定戦略の違いが防災意識に与える影響 ―プロスペクト理論とヒューリスティックスを用いて―

3回生の秋学期からゼミの課題文献で取り上げたダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』上下巻を読破し、それに基づいて、限られた時間の制約下での安全や安心の判断のゆがみを引き出しやすい項目を発見しました。本文81ページの大作となりました。根気よく、粘り強く卒論研究に取り組みました。

中尾かえで
歴史的景観を生かしまち歩きスポット比較研究 ―滋賀県長浜市、彦根市、近江八幡市を事例にー

長浜、彦根、近江八幡の3つの中心市街地のまちづくりの特徴を、足を生かし、現地訪問・インタビューを繰り返しながら明かにしていきました。結論として、まちづくりの主たる担い手(商業者中心の長浜、行政主導型の彦根、住民主体型の近江八幡)の違いが、まちづくりのありようを左右するのでは、という考察に至ることができました。

吉岡佑紀
女性の拒食・過食を生み出す社会構造 ―〈ジェンダー〉と〈近代家族〉の視点から―

3回生秋口から1年間、家族社会学における近代家族モデルの基礎文献に取り組み、それをもとに、近代家族モデルへの親和性の高さ、ジェンダー意識、拒食・過食傾向間に因果連鎖があることを質問紙調査を通じて実証しました。文献読解には時間がかかりましたが、リサーチ・クエスチョンができあがってからはスイスイと論文にまとまった研究です。

辻井峻
阪神・淡路大震災の被災障害者が経験したディスアビリティは被災地社会の何によってもたらされたのか ――ICFを用いた、被災障害者のドキュメント分析から――

神戸の人と防災未来センターの資料室に何度も足を運び、所蔵されている障害当事者や家族の手記や記録集21冊から、阪神・淡路大震災時に当事者が経験した不都合や不利益を、国際生活機能分類(ICF)を用いて客観的に整理しました。その結果は、東日本大震災時の障害当事者の経験と驚く程、似ていることが分かりました。地に足のついた実証的な災害社会学研究です。

大西絃太
京都市内の元学区コミュニティ地域のつながり(ソーシャルキャピタル)についての研究 ――GISを利用した地域分析――

京都市の地域コミュニティの基礎的な範域であるとされる元学区のすべて(222元学区)について、GIS上にマウスを使って手書きでコミュニティの範域(ポリゴン)を作成しました。そのおかげで、京都市地域自治推進室が過去3年間実施してきたコミュニティ基礎調査結果を地図を使って「見える化」することができるようになりました。大変な労作です。

秋山翔
京都市F区における職人のネットワークから見る伝統産業の発展と衰退に関する研究 ―京都市F区における酒造業界と人形職人の比較から―

3回生の時の河口調査実習で伏見の酒造業のフィールドワークをしたことを踏まえ、同じ地域の別業種に対して、同じパースペクティブから比較研究を行ったものです。伝統産業が、これからも発展するか、それともそうならないかを左右する要因について、探索的な仮説形成をし、足で稼ぐ社会学になりました。

佐野仁美
経済的支援を背景とした親子関係と自立意識について ―女子大学生Aさんと母親とのSNSの会話ログの分析を通じて

女子大生Aさんと母親とのSNSの会話ログの内容分析を通じて、就職活動の成功を通じて女子大生Aさんに起こった客我上の変化が、母親との関係にも影響を及ぼし、結果的に親子関係の文脈中でも、主我の変化がもたらされたことを実証的に示しました。大変に時間のかかる作業を、最後まであきらめずにやり遂げたと思います。

シッチ アナスタシア
日本人のマテリアル・カルチャーの特徴―ロシア人との比較を通じて―

来日してから体験してきた日本人のモノに対する関係性が、ロシアとは異なっている、という経験を出発点として、マテリアル・カルチャーに関する基礎文献を読破し、これに基づいて「ものとのつきあい方」に関する尺度を開発し、日露両国で質問紙調査を実施し、日本人のモノとのつきあい方は、人の関心を外部に向け、人を成長させ、他者への態度や世界観にまで影響をあたえていることを実証的に示しました。独創的な研究成果を生み出すことができました。