卒論の講評

19141006
船木亮介
自治会活動の活発化を促す要因についての考察

1年間にわたり紫野学区と地元のマンション自治会の役員・関係者に聞き取り調査を行い、両者の比較から町内やマンション内で起こっている事への「興味や愛着を喚起」するための広報と、自治会の自律力の根幹である「そもそも自治会がなぜ必要なのか」の意味を共有化することの重要性を自分でつかみとりました。

19141013
弘津凌希
配偶者選択における理想の結婚相手の決定要因に関する研究:家族モデルの視点から

イエモデル・近代家族モデル・合意制モデルという家族の3つの家族パラダイムが配偶者選択に与える影響を実証的に検討しました。出生家族のモデルが、配偶者選択でも大きな影響力を有することを実証的なデータを使って検証しています。立木ゼミの先輩たちから引き継がれてきた家族パラダイム・モデルの質問紙をバージョンアップするのに創意工夫がいかされています。

19141026
河野将大
東日本大震災からみる障がい者の死亡率

東日本大震災時の津波浸水マップを、公共施設の位置情報を示したマップを重ね合わせ、岩手県・宮城県・福島県の全沿岸部で、浸水域内の高齢者向け施設を一つ一つ丁寧に数えあげました。この作業をもとに「津波浸水域にある施設数」を変数化して、障がい者死亡率に対して有意な効果があることを実証した研究です。膨大な地図情報をコツコツと調べて数え上げるという根気のいる作業を、頑張って最後まで頑張り通しました。今後の防災対策の基礎になるファクトを積み上げることに成功しています。

19141031
小木曽充浩
多様化する「名づけ」についての研究―3 つの家族モデルの視点から―

キラキラネームをどのように社会学するのか?社会学の理論枠組みに、どのように位置づけるのかで大変苦労しました。が、完成してみると、家族モデルと名づけ方との間に関連性があり、21世紀型家族モデルとされる合意制家族志向の高い回答者ほどキラキラネームへの許容度が高いことが確認されました。ネーミングとは、子どもに願いや希望を託す行為であること、その行為が自らの内面の家族モデル(パラダイム)に左右されることを実証した王道の家族社会学研究となりました。

19141035
丸山瑞生
大学生のおみやげ贈与動機とおみやげ購買行動についての研究

なぜ人はおみやげを送るのか?この問題をモースの贈与論、レヴィ・ストロースの交換(タブー論)、ファンバールの互酬性論、中根千枝の義理・恩論などを踏まえて、おみやげ贈与動機を概念化・尺度化しました。実査での項目の因子分析から、おみやげ贈与は、①自分本位、②感謝・愛情、③共有、④返済、⑤証拠、⑥投資の6因子の構造をもつことを見いだしました。そして、親しい友人への贈与は、「感謝・愛情」と「共有」因子によって、また所属集団への贈与は、「感謝・愛情」と「返済」因子により説明されることを実証しました。理論と実証がうまく連動した力作です。

19141038
松村由香子
だんじりのローカル・トラック―大阪府富田林市東條地区を事例に―

吉川徹の『学歴社会のローカルトラック』に想を得て、対象を中学時代に据えて地域間移動の要因を質的に探った野心的な社会学研究です。最初は、吉川の変数をもとに中学後の進路選択を説明しようとしていましたが、今後も地域にとどまるか・戻るか、それとも転出するかを決定的に左右するのは、学歴に関係する要因ではなく、だんじりへの関わり方にあることを発見しました。いわばだんじりのローカルトラックを提唱する理論研究を提案する野心的研究成果をあげることができました。

19141040
妻鹿菜月
同志社大学生のボランティア活動への参加動機

大学生のボランティア参加の要因に関する先行研究を踏まえて、2017年時点での同志社大学生への質問紙調査から先行研究の同志社大学生への外的妥当性を検討した「古い理論・新しいデータ」型の卒論です。その結果、「周りにボランティアや助け合いに関心のある人がいる」ことが一番大きな説明要因となっていること、これは先行研究(知識の習得・利他主義・自尊新の高揚などの主体的な要因が有力な説明変数となっていた)の結果とは異なることを見いだしました。同志社大学生のボランティアへの関心は、内発的な理由ではなく、周囲からの同調圧力に影響を受けており、主体的な活動ではないかもしれない、という結果を得ています。

19141050
西村拓真
人間関係がヒューマンスキルに与える影響

就職活動で、企業がなぜコミュニケーション能力なるものを重視するのか、その根拠を明らかにする理論的・実証的研究です。コミュニケーション能力を「ヒューマンスキル」として操作的に定義し測定するとともに、回答者一人ひとりについて社会的ネットワーク密度を算出することで両者の関係を検討しました。その結果、ネットワーク密度が低い(狭い人間関係に閉じこもっているのではなく、ゆるやかに広いつながりのなかで生活している)学生ほど、ヒューマンスキルが高い関係があることをつきとめました。さらにこの関係が女性より男性でより顕著に見られるなど、今後の研究につながる実りの多い卒業論文研究となりました。

19141054
奥村知世
防災キャンプへの参加が「防災リテラシー」に与える影響についての研究―滋賀県防災キャンプの事例を通じて―

前年度・前々年度から、滋賀県での防災キャンプ事業に参加する児童・生徒を対象とした実験研究です。今年度は、キャンプ参加前後の防災リテラシーの変化を探ることに加えて、キャンプ非参加者(対照郡)についても、2時点での変化を始めて測定しました。その結果、防災キャンプの参加が防災リテラシーを高めるという因果関係について、より科学的根拠の高い知見を求めることができました。なお、本研究は2月16日夕刻に開催された滋賀県防災カフェで発表されました。カフェの最前列には三日月大造滋賀県知事が陣取り、熱心に発表に耳を傾けて頂きました。また、知事からの質問にも的確に応答することができました。

19141063
佐藤美香
ソーシャルキャピタルとアルバイト満足度「弱い紐帯の強さ」の研究

グラノベッターの「弱い紐帯の強さ」仮説が大学生のより良いアルバイト先探しと関係するかを、アルバイト満足度を従属変数にして実査を行い、110名から回答を得ました。その結果、理論的な予想どおり、弱い紐帯をもつ学生ほど、アルバイト満足度が高い(=良いアルバイト先を見つけていた)ことを確認しました。先行研究のレビュー、尺度項目の選定、実査、データ分析の一つ一つが後輩達にとってお手本となる卒業論文研究になりました。

19141066
曽我優成
女性専用車両から見るジェンダー意識

女性専用車両の利用は、どのような要因によって説明できるのか、を質的なインタビュー調査から探索した研究です。20代前半の女性9人にインタビュー調査をトライし、だんだんとスキルも上達していきました。その結果、女性専用車両は、痴漢対策だけでなく、体臭や視線を回避する「オヤジ」対策として利用されていること、さらに恋愛関係では積極的で、伝統的な「男らしさ」を求め、専業主婦志向に否定的でない女性に利用されている可能性を見いだしました。一方、女性専用車両を利用しない女性では、恋愛に積極的ではなく、男性を意識していない、からこそ気にせずにそれ以外の車両を利用している可能性を導きだしました。調査の始めの頃は、10分程度しかインタビューが続かなかったのですが、回数を重ねるごとにみるみるとスキルが上達していったのが実感できる研究でした。

19141077
辻孝章
体罰許容度に影響を与える要因

体罰に関するスポーツ社会学の先行研究や、体育会学生への質的なインタビュー調査をもとに、「体罰とは何か?」を操作的に測定する尺度を構築し、142名の同志社大学の体育会やサークル団体に参加している学生に実査を行い、体罰の許容度を左右する要因を明らかにしようとした野心的な研究です。その結果、男性の方が女性よりも体罰への否定感が有意に高いこと、体育会の学生の体罰許容度が有意に高いこと、高校時代に集団運動部に参加していた学生の体罰許容度が高いこと、そして自分自身が体罰経験を有すると体罰肯定感が有意に高くなること、体罰を自らが行ったことのある者は有意に体罰許容度が高くなること、などを実証的に明らかにしました。体罰を受けることが他者への体罰への許容度を高め、次なる連鎖が生まれていることをデータを用いて科学的に明らかにした点で、理論的・実践的に価値の高い成果が得られました。

19141081
和田歩実
ソーシャルメディア・特にSNS での自己開示行動の要因

一口にソーシャルメディアと言ってもFacebook, Twitter, Instagramといったそれぞれのサービスで、自己の開示のメカニズムは異なるのではないか、というリサーチ・クエスチョンを立てて、その答えを見つけようと努力した研究です。用いた尺度としては、立木ゼミの定番の自我同一性尺度を用い、各サービスでの自己情報公開度との関連性を、95名の大学生を対象に調べました。その結果、Twitter ではプライバシー意識が高く、孤立感の低い人ほど情報公開を控え、基本的信頼もしくは不信の高さが情報公開と関連するという興味深い結果を得ました。一方、Facebook ではプライバシー意識の高い人、他者への不信感が高いほど情報公開を控え、罪悪感の高い人ほど情報公開をする傾向が見られました。一方、Instagram ではプライバシー意識やアイデンティティとは有意な関係がなく、自分の投稿を見ているフォロワーの多さが自己情報の開示に繋がっていました。これらの基礎的な知見を踏まえたソーシャルメディアの社会学につながる予感を持たせる研究です。