卒論の講評

19151012
岩佐 勇輝
起業動機と起業パフォーマンスの関係性

岩佐さんは、4回生から立木ゼミに所属し、4月からの1年間で卒論研究をまとめるという短期集中型の取り組みを行いました。60名の起業家へのインタビュー記事からキーワードを抽出し、さらに対象の企業の継続年数を別資料から渉猟して統合させたデータに計量的分析を加えました。すると、起業に積極的価値を置くほど、起業の継続年数が低く、ライフスタイル型発言が、中程度の継続年数、そして非自発(なりゆき)的発言が、最長の継続年数と関連しているという大変に意外な結果を見出しました。起業の成功は、起業家の側の要因よりは、起業する環境要因に左右されるという社会学的な考察に結びついた力作に仕上がっています。

19161071
和田見慎太郎
介護不安が安楽死肯定態度に与える影響についての研究

和田見さんは、安楽死の肯定に関係する要因についての綿密なラブラリーリサーチに基づき、概念を独自に尺度化して208名の主として若者層を対象にGoogle Formsを使って社会調査を実施しました。その結果、若者たちは「将来自分が介護を受ける立場になるかもしれない」という不安が、安楽死肯定と関連していることを見出しました。デュルケム自殺論の枠組みから、このような態度を「自己本位主義的自殺」として理解されるという考察を行っています。抽象的な概念を、地道に尺度化して計量し、社会にアプローチするという社会学的調査の好例となりました。

1109171017
今吉 理公
歩行者が信号無視をする要因 ―外的・内的要因の二側面を踏まえた計画的行動理論からの検討―

今吉さんは、通学時などに目にする信号無視の歩行者の行動を、行動科学的な枠組みから理解しようと思い立ちました。ライブラリーリサーチに基づいて、信号無視行動をFishbein やAjzenの理論枠組みからモデル化し、Google Formsを使って143名からの有効回答を得ました。構造方程式による分析から、「主観的規範と⾃⼰効⼒感、制御可能性が⾼いほど、信号無視の意図を抑制する」ことを確認しました。妥当な理論枠組みと手堅い方法論から学術誌に投稿しうるレベルの研究成果が産み出されました。

1109171024
城山 陸
自殺念慮と相対的不満についての研究

城山さんは、身近な友人の自死をきっかけに自殺念慮を左右する要因について社会学的研究を思い立ちました。マートンの「相対的不満」をキーワードにライブラリーリサーチを行い、構成概念のモデル化・尺度化を行い、Google Formsを使って社会調査を実施し、153名から回答を得ました。重回帰分析の結果、家族関係や友人関係の悪さ、そして相対的不満の鍵となる「同世代と比較した自己の不適正感」がそれぞれ自殺念慮に影響することを確認しています。熱い想いと粘り強い研究姿勢がとりわけ印象に残る論文となりました。

1109171050
森田 百栄
児童期における社会的自我の発達-小学4年・6年次の日記をもちいたコレスポンデンス分析をもとに

森田さんは、小学校4年と6年生のときの担任の先生との日記ログをもとにミードの社会学的自己論の枠組みから精緻な実証分析による「私社会学」を実践しました。その結果、私と先生との語りは3つのグループに分かれること(①わたしの頑張りの記述から勤勉性や有能感にいたる、②4年時に特有な「意味の意識」と先生の応答、③否定的な記述の先生による肯定的なフォローを通じて対他的自己からの変容や一般化された他者像の受容が対自的自己の形成をうながすもの)を明らかにしています。身近な体験をミードの理論を使って一般化させた力量には目を見張ります。

1109171058
小川はるか
女子大学生のライフコース観・キャリア意識に与える母親の影響

小川さんは、卒論研究がスタートした3回生の秋学期から計量的な家族研究を志し、綿密な文献レビューをもとに構成概念とその尺度化、ならびに概念間の関係のモデル化をもとに綿密なリサーチデザインを構築しました。Google Formsを使った社会調査で214名の女子大生から有効回答を得て、女子大生の職業観の因果モデルの検証を行いました。専業主婦モデル規範の高い母親では、予想どおり女子大生の家庭志向が強くなり、一方経済的自立規範の高い母親では職業志向の職業選択意識をもつことが確認されました。さらに母娘の親密度が母子間のキャリア意識の伝播にある程度関係することもつきとめ新たな発見をもたらしています。今後の立木ゼミの計量家族研究のお手本となるような素晴らしい卒論に仕上がったと思います。

1109171065
坂上みなみ
大学生の一人行動と友人関係の関連性

坂上さんは、「ぼっち」でいられることと友人関係が豊かであることには関係があるのか、というリサーチ・クエスチョンを立てて計量的調査を行いました。102名への社会調査の結果は、ほぼ仮説通りで、一人でいられるためには良好な友人関係が存在することが前提になる、という「常識の虚をつく」ようなエビデンスを見つけることに成功しています。

1109171082
宅和紗帆
大学生の他者との繋がりがヒューマンスキルに与える影響についてーー結束型/橋渡し型ソーシャル・キャピタルに着目してーー

宅和さんの研究は、3回生の秋学期からの先行研究のレビューを踏まえて、大学生のソーシャル・キャピタル(結束型と橋渡し型)が対人関係のスキルの向上と正の関係があること、結束型は互酬性の規範を通じて同質的なネットワークの維持と関連し、橋渡し型はより広い人間関係に依拠した他者との関わりを保証すること、を大学生・大学院生236名を対象のGoogle Formsによる丁寧な社会調査結果(N=236)から導きだしています。宅和さんの卒業論文研究も、卒論研究をこれから始める後輩達の道しるべになるような質の高い論文に仕上がっています。

1109171089
卜部友太
友人関係がSNSの認知に与える影響

卜部さんは、ソーシャルメディア上での若者の態度や行動は、リアルな社会関係とどのように関係するのか、という野心的なリサーチクエスチョンを立てました。先行研究のレビューから構成概念を導き出すとともに、自分なりの概念も加えて網羅的なSNS尺度を構築し、Google Formsを使って大学生を中心に男女118名から回答を得ました。その結果、リアルな世界で肯定的な友人関係を築いているほど、ソーシャルメディアに肯定的な態度をもつとともに、深く人間関係に関わって「傷つけ・傷つけられ」を回避する傾向が高いほど、「即時的返信」や「閲覧強迫」が強くなる、という関係を確認しています。卜部さんのSNS尺度は、網羅的に関連する変数を尺度化しており、今後、さらに多くの発見が導き出されるポテンシャルがあると思っています。

1109171095
山田菜月
女子大学生に痩せ願望を引き起こす社会的要因についての研究

山田さんは、自らの経験も踏まえて女子大生の痩せ願望や体型不満は社会的要因(他者からの直接・間接の影響、身体に対する自己評価)によって左右されるのではないか、というリサーチ・クエスチョンを立てて概念化・尺度化を行い、Google Formsを使って200名の主として女子大生から回答を得ました。その結果、身体に対する自己評価、間接的な他者、そして直接的な他者からの影響の順で痩せ願望に影響を及ぼしていること明らかにしました。影響を及ぼす要因として、InstagramやTwitterといったソーシャル・メディアの方が放送メディアよりもより大きなインパクトを持っているということも明らかにしています。自分自身の関心を大切にし、1年半にわたり綿密で、丁寧な研究を進めることが出来ています。

11091771097
山村 理記
リスク・コミュニケーションが防災リテラシーに与える影響についての研究 ――福岡県大野城市・糸島市の事例から――

山村さんの研究は、九州大学の地盤工学の三谷研究室との共同研究のデータを用いて、福岡県内の2地区の住民とのリスクコミュニケーション活動の効果を探りました。その結果、2回のまちあるきに参加した住民では、脅威の理解(p.05)ととっさの行動への自信(p.10)が高まっていたことを確認しました。さらに、脅威の理解が高まったのは、特に男性で過去に被害を受けたことがある属性の人達で特徴的であったことも明らかにしています。今後、引き続き三谷研との共同研究は進めていく予定ですが、その第Ⅰ弾となる成果を生み出すことができました。山村さんには、今後、公務員として、今回の研究が活かせるような仕事を続けていってもらいたいと思います。

1109171099
山﨑ひより
:同担拒否のファンとジャニーズアイドルの戦略の関係性についての研究

アイドルのファン文化の一現象としての「同担拒否」(山崎さんの研究で初めて知った言葉です)を、24のアイドル・グループの個別の活動状況のリサーチ結果とアイドル・ファンへの大量の社会調査(回帰分析の対象者数800名!)からなる統合データセットを通じて明らかにした力作です。その結果、アイドルへのファン行為がグッズ購入、模倣、承認欲求、宣伝、メディア視聴、雑誌購入、SNSを通じた情報収集、奉仕といった8因子に整理されることなどを(恐らく)初めて明らかにした上で、アイドルグループ(美少年が一番「同担拒否」を引き出している)、「アイドル模倣」度が最も強く同担拒否に影響を与えていることを明らかにしました。ファン行為の根っこには擬似的な恋愛感情が存在していることを説得力をもって考察した大作です。

1109171101
余語 優志
若者と年配者の関わりの実態に関するインタビュー調査を用いた実証研究

余語さんは、年配者との関わりで、正負の強い感情的なやりとりのあった体験を男女12名の若者に語ってもらい、状況が3種類に分類されることを明らかにしました。①接客の場で年配者を激怒させた体験、②若者にとって「ほぼ異邦人」である年配者と相互的な交流が生まれた結果、好感をもった体験、そして③年配者から話しかけられたことによる困惑や煩わしさ体験の3つです。そして、最後の困惑の根底には、年配者の会話で生じる「会話自体を目的とするコンサマトリーなコミュニケーション」が、道具的なコミュニケーションと割り切っている若者との間に成立しないことに由来していることを示唆する興味深い考察を展開しています。