卒論の講評

吉冨諒子
自己受容と大学生の一人暮らしの関連について

吉冨さんは、あるインフォーマントの1人暮らしをきっかけとした自己受容の過程について研究を行いました。自己受容過程を反映するインフォーマントからデータを入手するため、インフォーマントの下宿先にあるモノの入手経緯、使用頻度、配置場所の変遷などをつぶさにデータ化しました。消費記号論と自己物語論にもとづき分析した結果、モノの記号的消費により「語られる自分」を意味づけする過程を通して、家族という社会集団から自立した自己が存在しうることを、明らかにしました。丁寧なインフォーマントからのログ収集から、当事者の自己受容過程の考察へとつなげており、今後のゼミ生の参考になるような「私社会学」を実践できました。

白髭未歩
ギャンブル依存の父をもつ子どもの依存症問題からの克服—大学生A のログを用いたコレスポンデンス分析から

白髭さんは、ギャンブル依存症の父親をもつあるインフォーマントの大学生が、父親の依存症問題を克服し立ち直っていく過程について研究を行いました。小学校時代から現在に至るまでの家族とギャンブル依存症に関するインフォーマントのヒストリーを聞き取り、鍵となるエピソードを収集し、各エピソードに関連するキーワードがどのような軌跡を辿ったのかを分析しました。ミードの社会学的自己論、ジンメルの社会分化論といった理論枠組みに準拠しつつ、インフォーマントが大学入学後に多様な社会圏に分属することで新たな対他的自己を確立させていったさまを克明に記しています。

嶋田翔斗
「生きる力」 とエージェンシー

嶋田さんは、1996年の中央教育審議会以来の流行り言葉となった「生きる力」の成立過程を、同時代の社会的背景(55年体制の崩壊や阪神・淡路大震災など)や学術的背景(エージェンシー概念)との連関をたよりに探索しています。綿密なライブラリーリサーチを実施し、数多くの文献資料を渉猟しました。同じ「生きる力」あるいは「エージェンシー」という概念であっても、その内包・外延は多様であるだけに、ズバリ的を射る手がかりがなかなか見つからず途中かなり歯がゆい思いをしたかもしれません。しかし、突拍子もなく「生きる力」なる概念が出現したわけではなく、流行するに足る条件は整っていたということは、嶋田さんの粘り強い研究姿勢によって示せたのではないかと思います。

茂木遼矢
児童虐待の社会構築主義的研究—兵庫県明石市の長期親子分離事例をもとに

嶋田さんは、1996年の中央教育審議会以来の流行り言葉となった「生きる力」の成立過程を、同時代の社会的背景(55年体制の崩壊や阪神・淡路大震災など)や学術的背景(エージェンシー概念)との連関をたよりに探索しています。綿密なライブラリーリサーチを実施し、数多くの文献資料を渉猟しました。同じ「生きる力」あるいは「エージェンシー」という概念であっても、その内包・外延は多様であるだけに、ズバリ的を射る手がかりがなかなか見つからず途中かなり歯がゆい思いをしたかもしれません。しかし、突拍子もなく「生きる力」なる概念が出現したわけではなく、流行するに足る条件は整っていたということは、嶋田さんの粘り強い研究姿勢によって示せたのではないかと思います。

中濱百花
障害を持った 方にとっての「働く」とディーセント・ワーク

中濱さんは、「障がいのある人にとって「働く」ことの意義とは何か?」を、単に生計の維持という経済的側面だけではなく、「個性の発揮や役割の実現」に注目してフィールド調査を行いました。就労継続支援B型の福祉作業所として運営されているカフェに一顧客と足繫く通うことからはじめ、最終的にはそこで働く障がい当事者や支援者にインタビューするところまで漕ぎつけました。はじめは、頻繁にカフェを訪れて地道にラポールを形成することに多少の躊躇はありましたが、結果的には、フィールドには影響を及ぼさない「第三者」としての調査ではなく、自身もフィールドの一部として対象化する自他不分離の視点にたったリフレクシブ社会学を実践できました。。

丸山夏実
銭湯内における挨拶や会話の要因と社交性

丸山さんは、銭湯の利用者間のコミュニケーションに関心を持ち、研究を進めました。3回生の頃から、京都市内の銭湯にとどまらず、関東の地元の銭湯にも通うなど、ガッツあるフィールドワーカーとして積極的に参与観察を行いました。頻繁に足を運んだ甲斐あって常連さんたちとラポールを形成でき、銭湯でのコミュニケーションは会話を回す人の存在が鍵となることや、利用者同士の人間関係、また、コロナ禍だからこそ求められる銭湯内でのルールなど、貴重な銭湯内の社交のようすが記録されています。まさに「足で稼いだ」労作です。

小﨑舞花
「ネットワークにおける他者との関係」と「ジェンダー自尊心」によるカミングアウトの受容傾向

小﨑さんは、セクシャルマイノリティのカミングアウトへの受容について研究を行いました。統計分析の結果、他者からのカミングアウトに対する受容度は、自身のジェンダー自尊心のほか、相手との関係性や紐帯の強さ(連絡頻度・知り合ってからの期間)によって影響を受けることなどを手堅く実証しました。文献レビュー、調査設計、調査実施までのプロセスを要領よくトントン拍子に進め、最終的には多変量解析まで実施しており、今年度の立木ゼミ生の中では一番スムーズに卒論研究を進められたのではと思います。

衣笠真由
観光スタイルと文化資本の関連性

衣笠さんは、「異文化を理解・体験する」「ロケ地やSNSでの名所を巡る」といった観光スタイルが、どのような身体化された文化資本として捉えられるのかを調査しました。アーリの観光論やその他の観光研究を参照しながらも、自分なりのリサーチクエスチョンを形成するのに大変苦労しました。しかし、蓋を開けてみれば、旅行先で何かを学びとることを目的とする道具的(instrumental)な高級・中間文化的観光スタイルと、旅行自体を目的とする自己充足的(consummatory)な大衆文化的観光スタイルに分けられることを示唆する大変興味深い結果を導いています。本人が生活するなかで感じた疑問から社会学的な考察に結びつけるという卒論の好例になったと思います。

紙浦直也
笑いの発生要因に 関する 社会学的提案

紙浦さんは、「笑い」の社会学的研究に取り組みました。自己呈示に関するゴフマンの古典を原文で毎週コツコツ読み込み、そこから笑いを引き起こす要素(Unmeant gestures, Inopportune intrusions)を抽出しました。これらの要素が実際に笑いを誘発するのかを検証するために、上記の2要素を紙浦さんが自らperformする映像をYouTube上で公開し、Google Formsを使ってその映像を評価してもらう実験計画を組むという実に画期的な方法で調査を行いました。文献レビューから映像作成、調査実施に至るまで、紙浦さんの「学者肌」と「職人気質」が発揮されたユニークな卒論に仕上がりました。

服部真陽
学習支援事業における子どもの居場所研究

服部さんは、自らが関わっていた学習支援事業の現場をフィールドとして、参与観察を行いました。ゼミ中も一番手で進捗報告をして、そのまま途中で抜けてフィールドに向かうなど、積極的に調査、そして実践を進めました。現場での出来事をログとしてデータ化し、それを卒論としてまとめることで、支援者としての視点とはまた違った角度から現場を眺めることができました。