はじめに

 本論文の目的は、ACOAAdult Children of Alcoholics)とACODAdult Children of Dysfunctional family)の概念を実証的立場から検証することである。

 アダルトチルドレン(AC)という概念は、『私は親のようにならない』(Black, 1981)や『アダルトチルドレン・オブ・アルコホリックス』(Woititz, 1983)の著書によりアメリカに定着していった。はじめはアルコール依存症の親のもとで育ち、大人になった者を指してACOAと言っていたが、その後アルコール問題に限らず、「機能不全家族(dysfunctional family)」のもとで育ち大人になった者にも同じ特徴が見られるとしてACODという用語が生まれていった。ACに関する数多くの著書が出版され研究がなされてきた。ACOAの心理的特徴として、Woititz1983)は13の特徴を、またKritsberg1985)は精神的な傷つきや孤独感、自責感などをあげている。また斉藤(1996)は機能不全家族で育った者の心理的特徴として14の特徴をあげている。しかし、これらACについての研究は臨床的な観察や記述によるものが多く最近では、これらの提示された特徴は考えや表現が漠然としていてどんな人にも容易に適用してしまう(Seefeldt, Lyon, 1992)、ACの特徴などをのせている書物には根拠となる調査的な研究がなされていない(Longue, Sher, Frebsch, 1992)などの臨床的経験に基づいたACの問題点が指摘されている。

 従って本研究では、ACの自助グループにおける逐語録をもとにACに見られる特徴を導き出すとともに、さらにそれらの特徴がACとどのように関係しているかを、先行研究との比較を踏まえながら、統計処理を用いて実証的立場から検証する。

 なお本論文では「Adult Children(アダルトチルドレン)」を‘AC’、「Adult Children of Alcoholics」を‘ACOA’、そして「Adult Children of Dysfunctional family」を‘ACOD’として用いる。