結果と考察
逐語録のコード化
ミーティングはすべて逐語録によって記録した。その逐語録をセンテンスごとにナンバリングした。二年間のミーティングの中における同じクライエントの発言をひとつにまとめて1サンプルとした。
次に調査のデータをコード化した。コード化の手続きについては次の通りである。
1)1次コードをつける。
逐語録の内容にまとまりのあるものをまとめてひとつのログとした。
2)2次コードをつける。
ひとつのログにおけるキーワードにラインマーカーを用いて、主要部位を明らかにすることに留意した。
3)3次コードをつける。
ACOA とACODとにわけて、キーワードを情報カードに書き移した。
<3次コードまでの例>
1次コードと2次コード
ACOD 女 25歳 Log1 小さい頃から父と母は不仲だった わたしは二人の伝書鳩だった 中2の時、父と母が離婚 その後母と二人で暮らしていた Log2 母は、いつも違う男を家に連れ込んだ 私はそんな母を軽蔑していた |
↓
3次コード(情報カード)
ACOD 女 25歳 両親不仲
|
ACOD 女 25歳 母を軽蔑
|
4)4次コードをつける。
KJ法を用いて、3次コードの抽象度を高め、ACOAとACODとにわけて、より少数のコードとしてカテゴリー化した。
5)4次コードの分類。
カテゴリー化した4次コードを
ACOAとACODごとに、6つのカテゴリーに分類した。カテゴリーとして、原家族・今の家族・自己・他者・異性関係・外部要因に分けた(表2-1,2-2,2-3,2-4,2-5,2-6参照)。(表2-1) 原家族の問題カテゴリー |
(表2-2) 今の家族カテゴリー |
||
ACOA |
ACOD |
ACOA |
ACOD |
・親へ甘える ・両親への同情 ・親と離れたいのに離れられない ・身内に対する不満 ・両親への怒り ・家族バラバラ ・身内がアルコール症 ・性的問題のある環境 ・虐待 ・抑圧 ・愛情不足 ・家庭内での孤立 ・親に感情を出せない ・何らかの役割を担ってきた |
・両親への同情 ・親と離れたいのに離れられない ・身内に対する不満 ・両親への怒り ・家族バラバラ
・性的問題のある環境 ・虐待 ・抑圧 ・愛情不足 ・家庭内での孤立
・何らかの役割を担ってきた |
・子供、夫を虐待してしまう ・家庭をコントロールする ・子供の育て方、子供への接し方が分からない ・配偶者に依存してしまう ・配偶者と親が重なる ・自分が両親と同じ事をしてしまう ・夫婦仲が悪い
・配偶者がアルコール依存症 |
・子供、夫を虐待してしまう ・子供の育て方、子供への接し方が分からない
・自分が両親と同じ事をしてしまう
・子供の問題 ・配偶者がアルコール依存症 |
(表2-3) 自己カテゴリー |
( 表2-4) 他者カテゴリー |
||
ACOA |
ACOD |
ACOA |
ACOD |
・ 感情がおさえられない・ 感情が起こらない・ 将来が不安・ 孤独・ 自責・ 自己否定・ 自信がない・ 劣等感・ 融通なし・ アイデンティティ障害
・ 病気・ 依存症・ 絶望・ 子供時代のトラウマ・ 両親と自分が重なる・ 自分で何でも背負う・ 仕事が出来ない |
・ 感情がおさえられない・ 感情が起こらない・ 将来が不安・ 孤独・ 自責・ 自己否定・ 自信がない・ 劣等感・ 融通なし・ アイデンティティ障害・ 過去の記憶がない・ 病気・ 依存症
|
・ 対人恐怖・ 他者不信・ 他者との接し方が分からない・ 他者に自分を出せない・ 我慢する・ 周囲の視線が気になる・ 他者に流される・ 他者支配・ 他者依存・ 他者をねたむ |
・ 対人恐怖・ 他者不信・ 他者との接し方が分からない・ 他者に自分を出せない・ 我慢する・ 周囲の視線が気になる・ 他者に流される・ 他者支配・ 他者依存
・他者に同情してしまう |
(表2-5) 外部要因カテゴリー |
( 表2-6) 異性関係に関する問題カテゴリー |
||
ACOA |
ACOD |
ACOA |
ACOD |
・いじめられた経験を持つ ・他人に性的いたずらを受けた |
・いじめられた経験を持つ |
・異性をコントロール(支配) ・異性に両親を求める ・異性依存 ・異性と接し方が分からない ・異性を嫌悪 |
・異性をコントロール(支配) ・異性に両親を求める ・異性依存 ・異性と接し方が分からない ・異性を嫌悪 |
カテゴリー化した中に発言のなかった被験者を削除したところ、ACOAは90名、ACODは86名、計176名(76.1%)になった。 その男女比はおよそ1:3である(表3-1,3-2,3-3)。
(表3-1) 精選後の
サンプル数(全体) |
サンプル数(ACOA) |
サンプル数(ACOD) |
||||||
男 性 |
46 |
男 性 |
26 |
男 性 |
20 |
|||
女 性 |
129 |
女 性 |
63 |
女 性 |
66 |
|||
性別不明 |
1 |
性別不明 |
1 |
性別不明 |
0 |
|||
合 計 |
176 |
合 計 |
90 |
合 計 |
86 |
項目の精選
先述のKJ法により得られた63項目(原家族問題15項目、今の家族の問題8項目、自己21項目、他者11項目、外部要因2項目、異性に関係する問題6項目)のうち、発言頻度が全体の5%以下の項目は、次の2つのいずれかで項目を精選した。 1.他の項目と組み合わせ、さらに大きなカテゴリーでくくり、項目を残す、2.他の項目と組み合わすことができない単独のものは削除する。この段階で残った項目は36項目(原家族問題10項目、今の家族の問題2項目、自己12項目、他者10項目、外部要因1項目、異性に関係する問題1項目)となった(表4-1,4-2,4-3,4-4,4-5,4-6)。
(表4-1)精選後の原家族の問題カテゴリー |
(表4-2)精選後の今の家族カテゴリー |
・両親へのプラスの思い ↑ { 親に甘える、両親への同情 、 親と離れたいのに離れられない }
・身内に対する不満 ・両親への怒り、不満、嫌悪感 ・家族バラバラ ・身内がアルコール症 ×性的問題のある環境 ・身体的虐待
・精神的虐待 ↑ { 抑圧、親に感情を出せない }
・愛情不足 ・家庭内での孤立 ・何らかの役割を担ってきた ×世間体が気になる |
・今の家庭の自分の問題 ↑ { 子ども・夫を虐待してしまう、 家庭をコントロールする、 子どもの育て方、子どもへの接し方がわからない、 自分が両親と同じ事をしてしまう、 配偶者に依存してしまう、 配偶者と親が重なる }
・今の家庭の問題 ↑ { 子どもの問題(不登校・薬物依存・摂食障害)、 夫婦仲が悪い、 配偶者がアルコール依存症 } |
(表4-3)精選後の自己カテゴリー |
(表4-4)精選後の他者カテゴリー |
・感情が抑えられない ・感情が起こらない ・将来が不安 ・孤独・自責
・自己否定 ↑ {自己否定、 自信がない、 劣等感 }
×逃避 ×自己承認 ・融通なし ・アイデンティティ障害 ・病気 ・依存症 ・絶望
・トラウマ ↑ {子供時代のトラウマ、 過去の記憶がない }
×両親と自分が重なる ×自分でなんでも背負う ×仕事ができない |
・対人恐怖 ・他者不信 ・他者との接し方が分からない ・他者に自分を出せない ・他者に我慢する ・他者の周囲の視線が気になる ・他者に流される ・他者支配 ・他者依存 ×他者をねたむ ×他者に同情してしまう |
(表4-5)精選後の外部要因カテゴリー |
(表4-6)異性関係に関する問題 |
・外部要因 ↑ { いじめられた経験を持つ、 他人に性的いたずらを受けた } |
・異性関係に関する問題 ↑ { コントロールする(支配)、 両親を求める、 依存、 接し方が分からない、 異性不信、 異性嫌悪 } |
最終的に残った36項目をコレスポンデンス分析した。項目のウェイトを見たところ、
ACOAとACODの関係を最もよく表す軸は次元2(Dim2)と次元3(Dim3)であった(付録1参照)。そして
Y軸をDim2に、X軸をDim3としてACOA、ACOD、男性、女性を含めて36項目のウェイトを座標点として散布図を描いた(図3参照)。図3
コレスポンデンス分析・散布図注)M:男性
F:女性ACOA
:アルコール問題を抱えた家庭で育った者 ACOD:機能不全家族で育った者C1
:外部要因 C26:今・家庭での自分の問題 C53:自己・病気C4
:異性問題 C33:今・家庭の問題 C54:自己・融通なしC10
:原・家族からの虐待 C37:自己・アイデンティティ障害 C57:他者・我慢C11
:原・家族バラバラ C38:自己・トラウマ C59:他者・依存C12
:原・家族内での孤立 C39:自己・感情が起こらない C60:他者・支配C13
:原・身内がアルコール依存症 C40:自己・感情爆発 C61:他者・自分を出せないC14
:原・身内に不満 C41:自己・依存 C62:他者・周囲の視線が気になるC16
:原・役割を担う C42:自己・孤独 C63:他者・接し方が分からないC17
:原・親への怒り C44:自己・自責 C65:他者・流されるC18
:原・親への同情 C45:自己・将来不安 C67:他者・不信C23
:原・親からの抑圧 C48:自己・絶望 C68:他者・対人恐怖C25
:原・両親の愛情不足 C50:自己・否定
コレスポンデンス分析によって得られた結果から、カテゴリーどうしの関連性を見たところ6つのグループに分けられ、それぞれのグループについて検討した。
.M
(男性)、ACOD、そしてC62「他者・周囲の視線が気になる」、C68「他者・対人恐怖」といった現在の状態を表すカテゴリーとなった。周囲の視線が気になる、対人恐怖が男性と
ACODの特徴といえる。詳しくはACODについて.及び男女差について.で述べる。.
C13「原・身内がアルコール依存症」、そしてC4「異性問題」、C59「他者・依存」といった現在の状態を表すカテゴリーと、C42「自己・孤独」というそれらの原因となるカテゴリーとなった。
自己の孤独感から他者に依存したり、異性に依存するといった異性問題があらわれると考えられる。
また、「身内がアルコール依存症」のカテゴリーが
ACOAの近くではなく、このグループに存在したことについては、ACOAについて.で詳しく述べる事とする。.
C16「原・役割を担う」、C10「原・家族からの虐待」といった原家族の経験に関連するカテゴリーと、 @C40「自己・感情爆発」、C54「自己・融通なし」、C60「他者・支配」、AC39「自己・感情が起こらない」、C37「自己・アイデンティティ障害」、C38「自己・トラウマ」、BC53「自己・病気」、CC44「自己・自責」、DC61「他者・自分を出せない」、C65「他者・流される」、C67「他者・不信」といった現在の状態を表すカテゴリーとなった。
原家族の中で自分の感情や意志を表現できない状況があり、それを引きずったまま現在に至った結果として、@〜Dのようなことが見られる。原家族の影響により自分の感情をうまく処理できずに、@のように感情を極端にあらわしたり、Aのように感情が起こらないといった両極端な状態、またBのように躁鬱などの病状としてあらわれると考えられる。Cのように原家族において自分を否定し役割を演じたり、自分が悪いせいで虐待を受けるといった思いを持っていたために自責の念を強く持つようになったり、Dのように自分の意志を押し殺していた原家族での経験を引きずっているために、他者に対して自分を出せなかったり他者不信に陥っているのであろう。
C33「今・家庭の問題」、C50「自己・否定」といった現在の状態を表すカテゴリーと、C25「原・両親の愛情不足」といったそれらの原因となるカテゴリーであった。
原家族での愛情不足や、原家族の中で自分の存在を否定されてきたことが、自信がない、劣等感といった自己否定に結びついたと考えられる。また、愛情表現の仕方を学ぶことが出来なかったために今の家庭において、子どもや夫への愛情表現の仕方が分からず、両親と同じような事を繰り返しているのではないだろうか。
ACOA、そしてC41「自己・依存」、C45「自己・将来不安」、C48「自己・絶望」、C57「他者・我慢」、C63「他者・接し方が分からない」といった現在の状態を表すカテゴリーと、C1「外部要因」、C12「原・家族内での孤立」、C14「原・身内に不満」、C23「原・親からの抑圧」といったそれらの原因となるカテゴリーとなった。
このグループでは二つの構造が見られた。一つには親からの精神的な抑圧や、いじめを受けたなどの外部要因により自己の感情が抑圧され、他者に自己を合わせようという感情が働く結果として無理に他者に対して我慢し、他者との接し方や距離の取り方が分からなくなってしまうことが考えられる。また、過剰な抑圧を受け、自分自身でで考えたり表現したりすることが少なかったために自分自身の将来について積極的に考える事ができず、将来に対する不安や絶望といった自分の感情を処理できない状態になっていると考えられる。
もう一つには、最も身近である家庭での孤立、そのことから生じる怒りや不満を他者に対して表現する代わりに、買い物、ギャンブル、摂食障害などの依存症という形であらわれているのではないだろうか。自分の中の孤独や不満を解消するために、依存という何かに頼る行動をとり、自己自身で処理しようとしない状態になっていると考えられる。
また、このグループの中に
ACOAのカテゴリーが含まれたことから、このグループがACOAの特徴を最も強く表すと考えられる。.
C26「今・家庭での自分の問題」という現在の状態を表すカテゴリーと、C11「原・家族バラバラ」、C18「原・親への同情」といったその原因となるカテゴリーとなった。
家族がバラバラな家庭の中で育ったために「仲の良い」家庭に触れることなく成長し、原家族を引きずり、今の家庭においても虐待、コントロールというような親と同じことをしてしまうと考えられる。
親への同情という、親を肯定的に捉えている相反するカテゴリーも含まれているところに、原家族を捨てきれていないジレンマを感じる。
ACOAについて.
グループ5に
ACOAが属していたことから、ACOAの特徴を最も強く表しているといえる。その特徴である原家族の影響により、感情を自己処理できなかったり、自己処理することから逃げだそうとすることをACOAは強く表すといえるのではないだろうか。そのグループで見られた、自分自身がギャンブル等に依存するということは、多くの先行研究が述べてきた、親と同じ事をしてしまうという世代連鎖の存在を裏付ける結果となった。多くの項目が
ACOAの周りに集中した。このことから、ACOAと診断され、このミーティングに参加している人たちには共通する特徴があるということが言える。そしてその共通の特徴には、「自己の問題」や「他者の問題」の項目に加え、「原家族の問題」の項目まで多く含んでいる。つまり、独立して「自己の問題」や「他者の問題」を抱えているのではなく、「原家族の問題」に関連して問題を持っているということが考えられる。ここで最も重要なことは、ミーティングに
ACOAとして参加している人のこれらの特徴が、一般的に言われているACOAは「アルコール依存症の家族の中で育った者」という特徴と一致するかどうかである。つまりACOAの前提とされる「身内がアルコール依存症」という項目がACOAとどのような関係を示したかである。本来ならばそれらは一致するはずであったが、今回の調査では少し離れて存在する結果となった(図3参照)。このことだけを見ればACOAの概念自体に問題があるのではないかと考えられるが、考慮しなければならない点がいくつかある。まず、ACOAとはそもそも「アルコール依存症」親を持つ者のことを指していることがはっきりしており、アダルトチルドレンだけの自助グループ内で改めてそのことについて発言する必要があっただろうか。また、コード化の過程の上での問題点も考えられる。例えば、「父親はお酒を飲むと暴力を振るう」という発言があるとする。我々はこの発言を「原家族・親からの身体的虐待」というカテゴリーに所属すると考え、「身内がアルコール依存症」という要素が含まれているにもかかわらず、カテゴリーとして数えなかったということである。つまりACOAと「身内がアルコール依存症」であるという項目が離れたことはACOAの概念自体の問題であるとは言い切ることはできず、むしろ以上のことによる影響の方が大きいのではないかと思われる。
ACODとはそもそも機能不全家族の中で育ったゆえに、何らかの問題を抱えた人々のことをいう。機能不全家族としてFriel(1988)は「身体的虐待や無視」「二重メッセージ、二重拘束のある家族」等の10項目を挙げ、西尾(1997)は「他人や兄弟、姉妹が比較される家族」「お金、仕事、学歴だけが重視される家族」等を挙げている。今回の調査の中でこれらの特徴を表すカテゴリーは、「原家族の問題」に分類された「原家族の虐待」「原親からの抑圧」等の9項目である。しかし今回の調査では、「原家族の問題」9項目が全てACODから離れたところに位置しているという結果になり、これはACODが「原家族の問題」に関する発言をあまりしなかったということを示しており、同時にACODに共通の特徴として「原家族の問題」が挙げられなかったということを示している。確かに発言が少なかったからといって、「原家族の問題」を抱えていないということとすぐには結びつけられないだろう。単にミーティングの場で発言しなかっただけかもしれないからだ。しかしミーティングは自由に自分のことについて話す場である。そこではやはり、現在自分が抱えている問題、自分に強い影響を持っていることを話すであろう。にもかかわらずその場で「原家族の問題」に関することを話さないということは、ACOD自身の問題の中核に「原家族の問題」がない、あるいは密接に関わっていないと考えられるのではないだろうか。このことは、「機能不全家族の中で育ってきた子どもは何らかの問題を抱えたまま大人になっている」というこれまで言われてきた一般的なACODの定義を揺るがすのではないか。
一方、
ACODの特徴として「対人恐怖」「他者・周囲の視線が気になる」という項目が見られた。すでに、ACODの定義への疑問は述べた。これは同時にACOD自体の存在を疑うと言うことである。にもかかわらず、ACODは現実として存在しており、しかも「対人恐怖」や「周囲の視線が気になる」といった共通の感情を抱いていることを結果は示している。しかし、「ACODは機能不全家族の中で育ち、その結果何らかの問題を抱えている」という定義を疑問視せざるを得なくなった今や、それらの感情も原家族との関係から生じたものではない可能性が高い、と考えねばならないだろう。これについての我々の見解を以下に述べる。何度も述べてきたように、「機能不全家族の中で育ってきたから
ACODとなった」という図式は成立せず、なによりもまず「対人恐怖」「周囲の視線が気になる」等の問題自体が存在する。自分は他人とうまくつきあえないという現実に直面したときに、メディアなどを媒介にACODの存在を知り、そして自分の育ってきた家庭が機能不全家族であると思いこみ、そして自分をACODであると認識する。しかし、現在では大なり小なり機能不全家族の要素をあわせもっているとも考えられ、その不全の程度の問題や、明確な定義がされにくいというような理由に、メディアによる
ACODの謝った認識も加わって、簡単に自分をACODであると思いこんでしまう危険性をはらんでいるのではないか。そこには、自分がアダルトチルドレンであると思うことにより所属の欲求が満たされるとともに、自分の生きにくさの原因を自覚することで安心感が得られ、さらには自分の抱えている問題の責任を親に押しつけることで、自らの心が軽くなるという心理が働くということも考えられる。しかしこれはあくまでも我々の仮説であり、これを実証するためには
ACODと自分のことをACODとあるとは考えていないものとの比較が必要となってくるだろう。.
男性に見られる特徴はグループ1の対人関連のものであり、女性はグループ
3・グループ5・グループ6に隣接していることから原家族をもととして特徴をあらわしているといえる。男性に見られる特徴は「対人恐怖」「周囲の視線が気になる」であった。これは男性の関心の中心が世間の社会的地位にも関連して家庭よりも社会にあるということ、同時に男性は公の場では家庭の問題を話すべきではないという考えを持っている可能性も否めず、その結果としてあまり多く発言しなかったのではないかと考えられる。
それに対して、女性は家庭問題について多く発言している。社会的な立場上、男性は仕事を通じて問題を意識し、それが職場での人間関係や他者との関わりの問題として明らかになるのだが、女性は親と接することも多く、親との関係の中で今までの家族問題を振り返ることが多いからではないだろうか。また、新しい家庭を築く中で、やはり子育てという問題に、男性より直接ぶつかり、家族関係により焦点を当ててしまうという理由も考えられる。
しかし今回の調査結果は、男性
46人、女性129人で、女性が男性よりも約3倍も多い条件で行ったものである。男女を同じ人数によって調査をおこなえばこれとは異なった結果が得られるかもしれない。
私たちのこの調査は、新阿武山クリニックの西川先生(PSW:精神医学ソーシャルワーカー)によって書かれた逐語録をもとに行った。そのため、この調査結果には先生のバイアスがかかっているとも考えられる。そこで私たちはこの調査の信頼性をはかるために、平成
9年7月9日から平成9年10月22日までのミーティングにおいて同じ発言に対して、専門的立場である西川先生と臨床に立ち会ったことのない実習生がそれぞれに逐語録をとった。そしてそれぞれの逐語録において前回と同様の調査を行い、それぞれのカテゴリーの発言頻度を出した。そこで両者の間で同じ結果が得られるかどうかを比較した(図4参照)。実習生と西川先生との逐語録をそれぞれカテゴリー化した結果、発言頻度の違いが見られたのは、「原家族の問題」、「今の家庭の問題」、「自己の問題」、「他者の問題」であったが、どれにおいても実習生の逐語録による発言頻度の方が多かった。これは臨床の場面に立ち会ったことのない実習生の方が、発言されたことをそのまま書いている傾向があり、発言に対してより多く記録していることが言える。一方、クリニックの先生は、発言に対してかいつまんで書いている傾向があり、それはあまり重要でないと考えた発言に対して省いていると思われる。重要でないと判断する基準はあくまで、先生の基準でありそこに少しバイアスがかかる恐れがあると言えよう。中でも「原家族の問題」や「他者の問題」において差がより顕著である。つまり、クリニックの先生は「原家族の問題」「他者の問題」に関する発言に対しては、他の発言と比べてはあまり重要視してないと言えるのではないだろうか。逆に「自己の問題」をより重要視しているとも考えられる。
これらを踏まえた上でこの調査結果を見る必要があるが、しかし全体を通して大きな相違は見られなかった。
図4 逐語録の比較 注)実習生:臨床の場面に立ち会った事のない実習生による逐語録、クリニック:新阿武山クリニックのPSWによる逐語録 |
今回の調査の反省点はカテゴリー分けの段階でその分類の方法がきちんと統一できていなかったことである。手作業でカテゴリーを分類したため、我々の先入観が介在したということも否めない。
また、サンプルの男女比が1:3もあり、そのことが今回の分析結果に何らかの影響を及ぼしていることが考えられる。今後、男女の数を同じにしての調査を行うことが望ましい。
今回の調査ではグループ内における発話を基にした逐語録を用いて分析を行ったが、調査で得られたカテゴリーをもとに今後質問紙調査を行えば、
ACOAとACODとの比較がしやすくなり、より明確な相違が見られるのではないだろうか。なぜならミーティングは自分の話したい事を自由に話す場であるので、人によって話の内容が様々であり、同じ事柄においての比較というものができない。またグループミーティングという中で、本音で話すことができないことも考えられる。質問紙での調査であれば項目は限定され、匿名性も高くなるので本音で答えやすいということもいえる。また今回の調査結果に対する
ACODについての我々の仮説を裏付けるためには、ACOAとACODとの比較だけではなく、ACOAやACODと共に一般の人々を対象とした調査が必要になってくるだろう。