第1章 概論 

 

【1】 マイクロ・カウンセリングについて

 

 ヒューマンサービスコース中級では、マイクロ・カウンセリング方式による援助技能の訓練が行われた。ここではマイクロ・カウンセリングが提唱されるまでの先行調査、研究の外観を述べる。

 援助を目的とした治療関係では、一面において科学であると同時に、また、アートであるとも言われてきた。あるいは援助者と援助技法は、不可分の関係にあると長年考えられてきた。しかし、1960年代半ば以降、援助者の持つ、治療的要因を実証的な観点から分析しようとする研究が数多く報告されるようになってきた(武田、立木、1980)。

 心理療法やケースワークの流派を問わず、援助者がクライエントに対して共感や、受容的で非審判的な態度、支持、ラポール、クライエントの人格の尊重などを示すことは重要である(Rogers, 1942; Biestek, 1957; Brammer and Shostram, 1965,1968,and 1977; 杉本, 1966; 武田、1967; 武田・立木、1981)。例えば、Biestek(1957)は、ケースワーク関係においてクライエントの個別化、目的を持った感情の表現、ワーカーの統御された情緒的関与、受容、非審判的態度、クライエントの自己決定の尊重、秘密の保持などが、ケースワーク援助の基礎となることを指摘している。

 Rogers(1961)は、この治療者とクライエントのやりとりを詳細に分析し、治療的関係を促進するための基礎的な条件として、治療者のとる態度がいかに重要かを指摘した。これを契機とし、治療関係中の援助者の示す言語的・非言語的な行動がクライエントにどのような効果を及ぼすかについて、数多くの実証的な調査が行われた(cf., Rogers et al., 1967)

 Truax(1966)は、熟練したカウンセラーの面接を録音して分析し、治療の流派(例えば来談者中進法や行動療法)を問わず、@治療者が心を開き率直に接する、A自然に振る舞う、Bクライエントにパーソナルに関与する、といった三つの技術が共通して観察できることを示した。

 Zimmer Park (1967)は、援助者とクライエントの言語的相互作用を記録し、行動上のレベルで援助者のとる行動を綿密に測定し、その結果を因子分析した。結論として彼らは、@積極的に耳を傾ける、A感情を反射する、B正確にクライエントの問題を要約するといった具体的なカウンセラーの行動が効果的な援助相談では共通して観察されることを明らかにした。

 ホリスは、実証的な面接過程のプロセス分析に基づいて、対人的社会福祉の援助技法を分類した(杉本、1986)。

 上記ような面接過程の記述的・質的な分析は、もともとは治療理論上の概念として提唱された、暖かさや共感、クライエントへの肯定的関心(Truax and carkhuff, 1967)などを、より計量的に行動上の用語で操作的に定義し、その臨床的効果を実験計画に基づいて検証しようとする機運に拍車を掛けた。そして、実証的なデータベースに基づいて、援助技術の教育を進めようとする方向が生まれたのである( Benjamin,1974; Goldstein, 1975; Brammer and Shostrom, 1977; Fischer, 1978; Jayaratne and Levy, 1979; 武田・立木、1981)。

 治療者の取るべき効果的な援助行動とは何かを特定し、それを行動上の用語で操作化し、体系だって援助技術を教える方法をIvey(1968)は、教示した。それは、@積極的にクライエントに関心を示す、A感情を反射する、B問題を正確に要約する、といった3種類の技術を行動のレベルで操作的に定義し、かつ各々の技術を一つずつステップ・バイ・ステップで学んでいくものである。そしてIvey(1971)や、IvwyAuthier(1978)は、援助技術を行動のレベルに分解して操作化し、初心者が体得しやすいように一つずつステップ・バイ・ステップで教授する、しかもビデオテープやロールプレイ、またモデルの観察などを活用するという方法を確立するとともに、教えるべき援助技術の種類を体系的に拡充した。これがマイクロ・カウンセリング方式による援助機能の訓練である。

 マイクロ・カウンセリング方式で教授されるべき具体的な技術について述べると、以下のごとくである(Evans et al., 1979; アイヴィ、1985)

ピントを合わせ、クライエントにしっかりとついていく「かかわり技法」(Focusing and Following, or Attending)

  1. 効果的な質問 (Effective Inquiry or Probing)
  2. 感情の反射 (Reflecting Feeling)
  3. 内容の反射 (Reflecting Content, or Paraphrasing and Summarizing)
  4. 援助者自身の感情を率直に伝える(Communicating Feeling and Immediacy)
  5. 効果的な対決 (Effective Confrontation)
  6. 援助者自身がパーソナルに関与する(Self-disclosure)
  7. 効果的な場の構成 (Effective Structuring) 

 マイクロ・カウンセリングは過去二五年間に渡って研究されてきた。この間、例えば上記のマイクロ・スキルのうち、かかわり技術だけに関しても、約二五〇近い調査研究が行われ、その臨床的効果が検証されてきた(Ivey,1971; Ivey and Authier, 1978; Daniels, 1985)。これらの調査はまた、かかわり行動という最も基本的な対人援助技術が、様々な分野の専門家や非専門家がに、極めて効率よく教授されることを示している。   

 かかわり行動については、後に詳しく述べようと思う。