因子負荷量による項目の精選
より妥当性の高い項目を残し,洗練された尺度にするために,「自己理解」・「自己承認」・「自己価値」・「自己信頼」の4つの総得点,また「他者からの関心・注目」・「他者からの尊敬・支持」・「他者からの包容」・「他者からの評価」の4つの総得点を変数として,探索的因子分析を行った.そして,バリマックス回転後の因子負荷量から,項目の精選を行った.
その際,1)因子負荷量の低い項目 2)一つの項目だけで独立した一つの因子を構成している のどれか1つにでも該当し,質問紙の信頼性を高める上で削除することが妥当であると考えられる場合,その項目を削除した.
自己受容尺度
上記の手続きの結果,音楽活動前の自己受容尺度では,4項目を削除し,最終的に23項目が残った(表1,表2参照).しかし,我々は音楽活動前後における自己受容・他者受容の変化を測定する事が目的であり,同一項目に統一する必要があったため,音楽活動前の回答結果をもとにした精選後の項目に音楽活動後の自己受容尺度も統一した.内訳は自己理解5項目,自己承認8項目,自己価値5項目,自己信頼5項目である.以下,各因子の説明を行う.
まず第一因子は自己承認に関する項目が3項目と自己価値に関する項目が2項目の,計5項目が布置した.その項目内容は,Q5「自分のことが嫌いだ」,Q60「自分のことが好きだ」,Q22「今の自分に満足している」(以上,自己承認に関する3項目),Q13「私はつまらない人間だ」,Q37「自分が今までやってきたことを,誇りに思う」(以上,自己価値に関する2項目)などの,特に自分がどういう人間であるかという認識に基づいた自己承認・自己価値と関係していた.そこでこの因子を「自己認識因子」と名付けた.
第二因子は自己信頼に関する3項目が布置した.その項目内容は,Q45「自分の将来はバラ色だ」,Q38「10年後の自分について,よいイメージが浮かぶ」,Q49「私の将来は真っ暗だ」などの,主に将来の自己への信頼に関するものであった.そこでこの因子を「自己信頼(未来)因子」と名付けた.
第三因子は自己理解に関する項目が1項目と自己価値に関する項目が2項目の,計3項目が布置した.その項目内容は,Q27「自分の長所がすぐに思いつかない」(自己理解に関する項目),Q6「何か特技をもっている」,Q28「やりたいことがない」(以上,自己価値に関する項目)などの,自分を理解し,その価値を認めた上で,自己を的確に表現すること(或いはその否定)に関係しているため,「自己表現因子」と名付けた.
第四因子は自己承認に関する3項目が布置した.その項目内容は,Q48「自分のイヤなところもゆるせる」,Q44「今までやってきたことをやり直したい」,Q11「人をうらやましく思う」などの,主に欠点も含めたありのままの自分への承認に関するものであった.そのため,この因子を「自己承認因子」と名付けた.
第五因子は自己理解に関する3項目が布置した.その項目内容は,Q10「自分のことは自分がいちばんよく知っている」,Q17「自分の性格をよく分かっている」,Q59「自分のことがよくわからない」であり,自分をどれだけ理解できているかに関するものであるため,この因子はそのまま「自己理解因子」と名付けた.
第六因子は自己信頼に関する2項目と自己理解に関する1項目の,計3項目が布置した.その項目内容は,Q23「苦しいときでも,自分の力でのりこえていける」,Q35「自分は頼りにならない」(以上,自己信頼に関する項目),Q31「私には欠点などない」であり,自己理解の逆項目としてつくったQ31も,見方を変えれば,それだけ自分を強く信頼しているということにつながるため,これらの因子を「自己信頼(現在)因子」と名付けた.
第七因子は自己価値に関する1項目と自己承認に関する1項目の計2項目が布置した.その項目内容はQ26「自分なりに頑張っている」(自己承認に関する項目),Q16「私には,ほかの人にないものがある」(自己価値に関する項目)であり,自分を価値あるものと思えるかといった内容であったため「自己価値因子」と名付けた.
第8因子は自己承認に関する1項目が布置した.その項目内容はQ41「自分の欠点を認めたくない」というありのままの自分を受け入れられず,自分を正当化しているという点から「自己弁護因子」と名付けた.
表1 音楽活動前の自己受容に関する項目についての因子分析
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説明率 |
2.980156 |
2.021350 |
1.682930 |
1.650624 |
1.549296 |
1.529043 |
1.494880 |
1.212810 |
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表2 音楽活動前の自己受容の質問内容と下位概念
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Q5 Q60 Q13 Q22 Q37 |
F F G F G |
自分のことが嫌いだ 自分のことが好きだ 私はつまらない人間だ 今の自分に満足している 自分が今までやってきたことを誇りに思う |
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Q45 Q38 Q49 |
H H H |
自分の将来はバラ色だ 十年後の自分についてよいイメージが浮かぶ 私の将来は真っ暗だ |
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Q27 Q6 Q28 |
E G G |
自分の長所がすぐに思いつかない 何か特技を持っている やりたいことがない |
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Q48 Q44 Q11 |
F F F |
自分のイヤなところもゆるせる 今までやってきたことをやり直したい 人をうらやましく思う |
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Q10 Q17 Q59 |
E E E |
自分のことは自分がよく知っている 自分の性格をよくわかっている 自分のことがよくわからない |
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Q23 Q35 Q31 |
H H E |
苦しいときでも自分の力でのりこえていける 自分は頼りにならない 私には欠点などない |
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Q26 Q18 |
F G |
自分なりに頑張っている 私には,ほかの人にないものがある |
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Q41 |
F |
自分の欠点を認めたくない |
自己弁護 |
E=自己理解 F=自己承認 G=自己価値 H=自己信頼
他者受容尺度
音楽活動前の他者受容尺度では,8項目を削除し,最終的には22項目が残った(表3,4参照). しかし,我々は音楽活動前後における自己受容・他者受容の変化を測定する事が目的であり,同一項目に統一する必要があったため,音楽活動前の回答結果をもとにした精選後の項目に音楽活動後の他者受容尺度も統一した.内訳は他者からの注目6項目,他者からの包容4項目,他者からの尊敬・支持2項目,他者からの評価3項目,同じく他者からの評価2項目,他者からの関心2項目,客観的評価2項目,評判1項目である.以下,各因子の説明を行う.
まず第一因子は他者からの関心・注目に関する項目が4項目と他者からの人間的ふるまいに関する項目が2項目の,計6項目が布置した.その項目内容は,Q55「クラスで自分の名前をあげられることが多い」,Q9「私は,人からあまり目立たないといわれる」,Q34「私は人に注目されていない」,Q4「人からよく話しかけられる」(以上,他者からの関心・注目に関する4項目),Q1「私はリーダー的存在だ」,Q15「学級委員など,何かの代表になったことがある」(以上,他者からの人間的ふるまいに関する2項目)であり,主に他者からどれだけ注目されているかといったことに関係しているため,これらの因子を「他者からの注目因子」を名付けた.
第二因子は他者からの包容に関する4項目が布置した.その項目内容はQ8「自分の悩みをうちあけられる人がいない」,Q46「困ったときの相談相手がいる」,Q14「私の悩みを誰もわかってくれない」,Q29「自分のことをわかってくれる人がいる」であり,他者からどれだけ受け入れられているかに関するものであるため,この因子はそのまま「他者からの包容因子」を名付けた.
第三因子は他者からの人間的ふるまいに関する2項目が布置した.その項目内容はQ7「友だちに傷つくようなことをいわれたことがある」,Q16「いじめられたことがある」であり,他者からの尊敬度(この場合は2項目とも否定)に関するものであった.そのため,この因子を「他者からの尊敬・支持因子」と名付けた.
第四因子は他者からの評価に関する3項目が布置した.その項目内容はQ42「家族は私に期待している」,Q40「何もできない子だと思われている」,Q33「人によくほめられる」であり,他者がどれだけ自分の価値を認めているか,そして評価しているかに関するものであったため,「他者からの評価因子」と名付けた.
第五因子は他者からの評価に関する2項目が布置した.その項目内容はQ3「テストに点がよくても,親はほめてくれない」,Q20「自分の努力を認めてもらえない」であり,先ほどの第四因子と同じく他者からどれだけ認められ,評価されているか(この場合は2項目とも否定)に関するものであったため,「他者からの評価因子」と名付けた.
第六因子は他者からの関心・注目に関する2項目が布置した.その項目内容はQ30「会話の中で自分のことはあまり話題にならない」,Q58「私が学校を休んでもだれも気にしない」であり,他者との関わりの中で自分の関心度がどれくらいのものであるかを表わしているため,この因子を「他者からの関心因子」を名付けた.
第七因子は他者からの評価に関する2項目が布置した.その項目内容はQ56「そろばんO級など,何か資格をもっている」,Q21「今までに表彰されたことがない」であり,他者からの評価においても特に客観的なものであるため,これらの因子をそのまま「客観的評価因子」と名付けた.
第八因子は他者からの評価に関する1項目が布置した.その項目内容はQ39「近所での評判がよい」というものであったため,そのまま「評判因子」と名付けた.
表3 音楽活動前の他者受容に関する項目についての因子分析
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表4 音楽活動前の他者受容の質問内容と下位概念
質問番号Q55 Q9 Q1 Q34 Q4 Q15 |
C C B C C B |
クラスで自分の名前をあげられることが多い 私は,人からあまり目立たないといわれる 私はリーダー的存在だ 私は,人に注目されていない 人からよく話しかけられる 学級委員など,何かの代表になったことがある |
他者からの注目
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Q8 Q46 Q14 Q29 |
A A A A |
自分の悩みをうちあけられる人がいない 困ったときの相談相手がいる 私の悩みを誰も分かってくれない 自分のことをわかってくれる人がいる |
他者からの包容
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Q7 Q16 |
B B |
友達に傷つくようなことをいわれたことがある いじめられたことがある |
他者からの 尊敬・支持 | |||
Q42 Q40 Q33 |
D D D |
家族は私に期待をしている 何もできない子だと思われている 人によくほめられる |
他者からの評価
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Q3 Q20 |
D D |
テストの点がよくても,親はほめてくれない 自分の努力を認めてもらえない |
他者からの評価
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Q30 Q58 |
C C |
会話の中で,自分のことはあまり話題にならない 私が学校を休んでも,だれも気にしない |
他者からの関心
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Q56 Q21 |
D D |
そろばん*級など,何か資格をもっている 今までに表彰されたことがない |
客観的評価
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Q39 |
D |
近所での評判がよい |
評判 |
A=他者からの包容 B=他者からの人間的ふるまい C=他者からの関心・注目 D=他者からの評価
以上のような精選作業後の項目を使用してわれわれの仮説に基づいた分析作業を進めた.
まず項目精選後の平均値の変化をみることにした.音楽活動前(事前)の自己受容の平均値は73.97(SD=10.99),他者受容の平均値は72.64(SD=10.76)となり,また音楽活動後(事後)の自己受容の平均値は74.78(SD=11.60),他者受容の平均値は73.53(SD=10.63)であった.全体として平均値はほぼそろっており,自己受容・他者受容における全体の平均値は事前,事後ともに変化がなかった. 音楽活動前(事前)の自己受容の中央値は73(Q=7.5),他者受容の中央値は73(Q=7.0),また音楽活動後(事後)の自己受容の中央値は74(Q=6.5),他者受容の中央値は73(Q=7.0)であり,ほとんど変化がみられなかった(表5参照).
表5 項目精選後の中央値,平均値と標準偏差
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さらにこの中央値,平均値を音楽活動(合唱コンクール)に参加したものと参加しなかったものに分けてみることにした(表6参照).この時点でも他者受容,自己受容ともに音楽活動参加の有無・音楽活動の前後にかかわらず中央値,平均値に目立った変化はみられなかった.
表6 音楽活動への参加の有無をふまえた中央値,平均値と標準偏差
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