方法

 

研究の第一歩として、就職活動を成功(主観的な判断基準によるのではなく、企業からの内定や公的機関からの採用を意味する)を取得するために必要な要素を文献から絞り出し、その中の二つの要素の変化を測定することにした。よく言われるのは、「就職活動は自己分析と企業研究の繰り返しである」(就職ジャーナル、1997)と言うことだ。我々はまず、測定対象として自己受容度に着目した。自己受容とは「自己の現実の姿についての正確な観察を行ない、その姿をありのままに受け入れる」(Combs & Snygg,1949)ことである。就職活動をすすめるにあたり学生は繰り返し自己分析を行ない、「自己の良い面も悪い面も積極的に受け入れる」(佐倉、1997)という精神的作業を繰り返すと考え、調査内容の要素とした。また、もう一つの調査要素として、我々はコンピテンスに着目した。コンピテンスとは、環境との交流の積み重ねの結果生じるもの、つまり効果的に環境と相互作用する能力と定義される(White,1959)。企業分析や採用面接などで徐々に理解を深めていく社会の中から自己を生かせる環境を探し出し、内定取得という目標達成のために自己と社会環境をコミットメントさせていく過程こそ、就職活動であると考えた。

自己受容の尺度としては、1996年度の立木ゼミ3回生の研究で作成された自己受容測定尺度(石原、佐倉、高木、冨岡、西原、長谷川、1997)を用いた。自己受容測定尺度は、4つの構成概念とその下に属する9の下位変数からなる28項目の尺度である(1-1参照)

コンピテンス尺度は栗本(1997)によって作成された尺度を用いた。コンピテンス測定尺度は3つの構成概念と10の下位変数からなる30項目の尺度である(1-2参照)

 

 

 

 

表1-1 自己受容測定尺度の理論モデル

下位尺度(構成概念)

変数

 

項目数

『自己信頼』

 

 

 

 

「現在」

re(現在)

5項目

「未来」

re(未来)

2項目

『自己価値』

 

 

 

 

「肯定的」

va()

3項目

 

「否定的」

va()

4項目

『自己承認』

 

 

 

 

「肯定的」

ad()

3項目

 

「否定的」

ad()

3項目

『自己理解』

 

 

 

 

「認識」

u(認識)

4項目

 

「表現」

u(表現)

2項目

 

「分析」

u(表現)

2項目

 

 

 

 

 

 

 

 

表1-2 コンピテンス尺度の理論モデル

下位尺度(構成概念)

変数

 

項目数

『社会的知識』

 

 

 

 

「規則・常識」

sk(規則・常識)

4項目

 

「適切さ」

sk(適切さ)

2項目

 

「不適切さ」

sk(不適切さ)

2項目

『共感』

 

 

 

 

「無関心」

em(無関心)

4項目

 

「肯定感情」

em(対肯定感情)

2項目

 

「否定感情」

em(対否定感情)

4項目

 

「博愛」

em(博愛)

2項目

 

 

 

 

 

 

 

 

下位尺度(構成概念)

変数

 

項目数

『場のコントロール』

 

 

 

 

「クラス内」

lc(クラス内)

4項目

 

「環境」

lc(環境)

3項目

 

「効用」

lc(効用)

3項目

 

 

表2 探索的因子分析の結果

因子1

因子2

因子3

因子4

因子5

因子6

因子7

因子8

項目

Q54 a(価値)

.75

.08

.20

.22

.11

-.07

.05

.05

自分はつまらない人間だ

Q11 a(信頼)

.69

.14

.23

.11

.11

-.05

.08

-.01

自分は将来成功しないだろう

Q37 a(価値)

.68

.14

.20

.24

.19

-.20

-.00

.04

自分はどうしょうもない人間だと思う

Q5 a(信頼)

.67

-.01

.32

.12

-.06

.27

.02

.04

私は自分に自信がある

Q43 a(価値)

.67

.16

.18

-.04

.07

.04

.00

.21

自分が今までやってきたことを誇りに思う

Q13 a(価値)

.66

.11

.28

.12

.21

-.09

.21

.05

自分は役に立たない人間だ

Q23 a(信頼)

.65

.04

.17

.01

-09.

.02

.04

-.09

自分の将来はバラ色だ

Q8 a(承認)

.65

.17

.12

.04

-.11

.04

-.04

.00

自分のことが好きである

Q40 a(信頼)

.64

.11

.20

.16

-.02

-.09

.14

.01

自分の力を信じることができる

Q10 a(価値)

.61

.07

.24

-.01

-.01

.02

.05

-.04

自分は貴重な存在である

Q34 a(承認)

.59

.16

.02

.27

.15

.34

.00

.14

自分のやってきたことは失敗ばかりであった

Q30 a(承認)

.57

-.10

.01

-07.

.05

.22

.05

.12

今の自分に満足している

Q16 a(価値)

.56

.12

.16

.22

.15

-.16

.01

.07

生きていても仕方がないと思う

Q44 a(信頼)

.56

-.05

.41

.20

.20

-.09

.04

.08

自分は頼りにならない

Q57 a(承認)

.54

.26

.02

.03

.10

.32

.08

.04

今の自分を受け入れることができる

Q28 a(信頼)

.53

.25

.16

.02

.10

.04

-.07

.08

自分がしていることはいつか実ると思う

Q22 a(承認)

.50

-.08

.12

.34

-.03

.04

.10

-.06

自分の容姿に劣等感を持っている

Q12 a(価値)

.49

.08

.26

-.01

-.14

.27

.02

-.00

自分は他人にないものがある

Q25 e(--)

.08

.77

.06

.22

.12

-.06

-.11

.10

友達が落ち込んだ顔をしていても何とも思わない

Q19 e(+)

.24

.70

.08

-.11

-.09

-.07

.31

-.11

友人が喜んでいると自分もうれしくなる

Q27 e(--)

.08

.69

.04

.18

.15

-.09

-.25

.20

他人が悲しんでいても、自分に害が及ばない限り関係ない

Q41 e(--)

.13

.67

.09

.25

.02

-.12

.20

-.03

友人の相談に乗るのはめんどうくさい

Q20 e(+)

.29

.66

-.01

-.07

-.06

-.14

.26

.00

友達のいい話を聞くと、自分もうれしくなる

Q24 e(--)

.05

.63

.09

.24

.14

-.04

-.14

.31

人がけがをしているのを見ても、別になんともない

Q42 e(+)

.15

.63

.10

.04

.05

.13

.01

.00

友達が落ち込んでいれば、気持ちを分かってあげようと思う

Q46 e(+)

.02

.58

.18

.06

.24

.18

.09

-.05

友達がため息をついていると「どうしたん?」と聞いてみる

Q56 e(+)

.17

.54

.28

-.06

.12

.14

-.08

.17

自分が何かすれば幸せになる人がいるのなら、何とかしてあげたい

Q17 e(+)

.12

.50

.06

.08

.38

.18

-.17

.15

他人を気遣うのは当然のことだ

Q35 e(+)

-.01

.45

-.08

-.06

.01

.33

.08

-.11

友達から悩みを相談されたとき、「もし私だったら…」と考える

Q50 e(+)

-.08

.43

-.07

-.05

.25

.17

.00

.32

ニュースで悲惨な事件を聞くと、胸が痛む

Q26 l(+)

.37

-.00

.74

.07

.10

.06

-.00

.01

自分には人を引っ張っていく力がある

Q36 l(+)

.17

.12

.73

-.09

.08

.01

.18

-.04

グループで何かをするときにはみんなをまとめたい

Q55 l(+)

.25

.14

.70

.17

-.05

.18

-.10

-.05

活発に意見を発言する

Q49 l(--)

.18

.11

.68

.03

.06

-.10

.05

.16

クラスのリーダーなどに選ばれるのは私にとってつらいことだ

Q38 l(+)

.26

.05

.67

.07

.13

.00

.15

-.11

私がその気になればみんなを動かすことができる

Q21 l(--)

.13

.15

.65

.29

-.07

.07

-20

.05

話し合いの場ではあまり意見を言いたくない

Q4 l(+)

.23

.04

.47

.11

-.02

.20

.05

.01

私の言動は周囲に何らかの影響を与える

Q39 u(認識)

.24

.15

.14

.67

.19

.07

.15

-.04

自分の性格を自分でも理解できない

Q7 u(認識)

.33

.14

.08

.67

.23

.05

.17

-.00

自分のことが良く分からない

Q53 u(認識)

.23

.16

.22

.64

.03

.21

.19

.14

自分がどういう人間か人には説明できない

Q18 s(--)

.14

.15

-.06

.26

.68

-.08

-.03

.03

本当のことを言ってしまって気まずい雰囲気になることがっしょっちゅうだ

Q1 s(+)

.13

.12

.04

.03

.63

.10

.00

-.07

この一言は今言うべきでないという判断ができる

Q29 s(--)

.05

.03

.16

.10

.61

-.07

-.04

.26

常識がないとよく言われる

Q15 s(+)

.05

.25

.17

-.16

.57

.15

.22

.07

場の雰囲気を壊さないように気をつける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因子1

因子2

因子3

因子4

因子5

因子6

因子7

因子8

項目

Q52 s(--)

-.03

.07

-.05

.06

.44

-.21

.21

-.09

グループ内で面白くないことがあるとすぐ顔に出てしまう

Q9 u(表現)

.16

.15

.25

.37

-.07

.60

.09

.09

自分の長所と短所がすぐに言える

Q51 u(表現)

.16

.11

.21

.50

-.05

.51

.13

.10

自分の特徴がすぐに言える

Q3 u(分析)

.06

.01

.11

.12

.08

.14

.75

.06

客観的に自分を見つめることができる

Q14 u(分析)

.15

.11

.01

.33

.05

-.05

.62

.15

主観的にしか自己分析できない

Q48 u(認識)

.18

.-06

.01

.18

.12

.39

.42

-.05

自分のことは自分が一番良く知っている

Q2 s(--)

.08

.15

.10

.09

-.00

-.06

.02

.80

規則は守っても守らなくてもよいものである

Q45 s(+)

.16

.08

-.07

-.01

.09

.10

.12

.79

規則やルールはきちんと守る

                                                                                    

本調査の対象は98年度に新卒で就職をする学生(調査群)である。春季調査は、97426日に関西学院大学で行なわれた学内セミナー参加者を対象に行なった。有効回答数は150名であった。秋季調査は、9711月に、春季調査に協力いただいた学生に、郵送で行なった。有効回答数は79名であった。比較検討のため、同大学の3回生(対象群)に、同時期に、同一の調査を行なった。理学部を除く全学部を対象に、ゼミナールを一つの単位として、クラスターサンプリングの形式で行なった。春季、秋季の有効回答数は、それぞれ126名と115名であった。    

質問紙は、上述の自己受容尺度とコンピテンス尺度を、一つにまとめた尺度を使用した。尺度の信頼性(α)係数は、自己受容が0.915、コンピテンスが0.849である。

なお、今回の調査結果を因子分析した結果、自己受容の質問項目で、「自己理解」の概念はきれいな因子に分かれたが、その他の概念は入り乱れて、「自己承認」「自己信頼」「自己価値」を一つの因子として解釈せねばならなくなった。(13参照)

そこで自己受容に関して過去の研究をレビゥ−してみる。宮沢(1978)によると、自己受容における「自己概念とは対象としての自己および自己の行動に対する知覚やそれに対する態度・感情・評価などをさしたものであるという点で、多くの研究者の自己概念に関する見解は一致している」とあり、自己を知覚することと、知覚した自己に対して何らかの態度、感情、評価を持つことの2つに大別できる。

Crowne & Stephens (1961)らによると、自己受容性は「自己評価における満足の程度」とまとめてある。Combs & Snygg (1949)は「自己受容性とは自己の現実の姿についての正確な観察を行ない、その姿をありのままに受け入れることである」としたが、Rogers(1949)以来その自己受容的な人の持つ評価的側面をとらえての実証的研究が行なわれ、自己受容性は、Crowneらの述べるように「自己に対する肯定的態度をさす概念」として使われている。つまり自己受容するためには、まず自己をよく知り、その上でそれらを否定することなく受け入れることだと述べているのである。

Wylie (1974)、北村(19771978)、梶田(1988)などは自己受容が自己評価や自己認知とほぼ同義と述べており、また沢崎(1993)は「自己認知は自己受容の前提条件あるいは必要条件と考えられ」るが、社会的に望ましくないとされる自己の属性に対する受容を問題にした場合、望ましい属性に対する受容はそれほど困難ではないが、望ましくない属性に対する受容は一般的に困難であり、望ましくない属性が受容されるということはそのことに対して否定的な感情を持たない、こだわらない、とらわれないといった状態なので、自己受容は自己に対する肯定的な評価であるとのみ考えるのも一面的であると言っている。つまり、「人は普通、自己像の全体に対して、全面的に肯定か否定か、満足か不満かのどちらかの態度をとるのではなく、自己像のある側面については満足し、肯定し、別のある側面については不満を感じ、否定的であるといえよう。そこで全体の自己像のある側面は好ましい自己、よい自己、または自分の強いところであると思われ、別の側面は好ましくない自己、悪い自己、または自分の弱いところと認められることになる」(北村、1977)とある様に、「好ましい自己」は積極的に受け入れ、「好ましくない自己」には執着したり、とらわれたりしない、この両者のバランス感覚が重要であるといえる。

まとめると、自己受容には、まず第一に自己をよく知るということが必要で、第二にその知った自己がよいものである場合には積極的に受け入れ、よくないものである場合には否定的な感情を抱いたり、とらわれたりしないという、二つの側面が少なくとも存在するということである。

そのようなわけで、今回使用した自己受容測定尺度(石原・佐倉・高木・冨岡・西原・長谷川1997)での調査の結果、元々あった4因子を2因子に統合し、「自己理解」はそのまま「自己理解」に、「自己承認」「自己信頼」「自己価値」は「自己容認」という一つの下位概念にまとめた。上述の内容から納得いただけると思う。

「自己容認」概念は、a(admire)と表記することとした。「自己容認」概念の変数として、「価値」(a(価値))、「信頼」(a(信頼))、「承認」(a(承認))の3つとした。

また、項目の中には他の項目と結びつきが弱かったり、他の概念で構成される因子と結びついたものがあり、自己受容項目で2つ、コンピテンス項目で4つの計6つの項目を削除した形で、その後の分散分析等を行なった。削除した項目は以下の項目である。

Q6 自分がやりたいことは困難にぶつかってもやり遂げる。 l(+)

Q31 私には何かをやり遂げる力があるはずだ。 l(+)

Q32 自分のやりたいことに、少しでも邪魔が入ったら途中であきらめてしまう。 l(--)

Q58 相手が大人でも、普段と全く同じ話し方で話している。 s(--)

Q33 10年後のイメージがよく浮かぶ。 a(+)  

Q47 人をうらやましく思う。 a(--)

なお、自己受容測定尺度、コンピテンス尺度は、共に信頼性の高い尺度である。今回の調査では2つの尺度を混ぜて同時に被験者に回答していた大たために項目に矛盾が生じたのであろう。これらの尺度の信頼性を問うための調査ではないことをお断りしておきたい(3参照)