考察

 

調査の結果は、就職活動を通じて学生は自己受容とコンピテンスの成長を促すという我々の仮説を実証するものとはならなかった。仮説を実証できなかった原因は、調査時期の不備にあると考えられる(3 参照)。前述したとおり、調査は、春季が4月下旬〜5月上旬、秋季が11月上旬から下旬にかけて行なった。

4回生の春季と3回生の秋季との間で学年を変数として分散分析をした結果を見ると、コンピテンスに有意さが生じた。つまり、3回生の秋季から4回生の春季にかけて、コンピテンスが伸びているのである。3回生の秋季から4回生の春季の間にコンピテンスを伸ばす何らかの要因があり、その要因の大きな一つは、今年度より就職協定が廃止されて前倒しとなった就職活動であろう。春季調査の時点の対象群はすでに就職活動の影響を受けていた。今年度は、4月時点ですでに内定を得ていた学生もおり、春季調査を実施した4月下旬〜5月上旬には、就職活動がかなり進んだ学生が大勢おり、コンピテンスはピークポイントに近い状態であったと思われる。

また、3回生の秋季に関しても4回生の春季同様、就職活動の影響をすでに受けていたであろう。調査を実施した関西学院大学で比較群(3回生)を対象に就職活動のためのセミナーを開始したのが9月下旬であった。秋季調査に至るまでに、比較群に就職活動に対する意識があったことは否めない。

自己受容も対象群の春季はもちろん、比較群の秋季の時点でも就職活動が影響していると考えられる。対象群の春季が低いのは、「はじめてぶつかる社会の壁に打ち砕かれて、自身もやる気も木っ端微塵」(杉村、1997)の常態に多かれ少なかれなっていた学生の自己受容が下がってしまったためであろう。実際に企業の人と会い、受け入れてもらえなかった焦りや自信喪失が、自己受容にマイナスに影響したと考えられる。

 図3 今回の調査時期と次回の調査時期

 我々の仮説は、就職活動を終了した時点で自己受容とコンピテンスが伸びるというものである。就職活動を行なう学生は、いったい自分とはどういう人間なのかと考えたり、これから飛び込んでいく社会の知識や理解を深めようとする。その中で、自分を見失って自己不確実(広井、1980)や、アイデンティティ拡散(鱸、1990)に陥ったりする。また、自分を確立していたとしても、それが磐石のものでなければ、企業からの内定がなかなかもらえないと、自分に自信を持てなくなる結果となるだろう。そんな中で、家族や友人そして大学の就職指導などを通して、ほんのちょっとしたアドバイスや支えにより、多面的、多角的に自分や社会を見詰めることができ、新しい発見やさらなる意欲へとつながり得るであろう。実際に企業の人と会い、面接をする中からも、これらを得られるだろう。自己について悩み、将来について不安を抱き、ある企業からは不必要の烙印を押され落ち込む。自己を再び見つめ直し、周囲の人の支えをありがたく感じながら再度、成功目指してがんばる。就職活動はこれらの繰り返しである。悩み、苦しみさえも、成長し成功を得るためのモチベーションとできた時に就職活動を納得して終えられるのではないだろうか。

今回の調査では、就職活動を通じて学生が成長することを実証できなかった。調査時期の不備が大きな原因であろう。次回の調査では、就職活動の影響をほとんど受けていない3回生の9月と、その学生たちが就職活動を終えた直後に調査をして、比較検討されることをのぞむ。