U 母親教室について
専門的な治療者との個別的な接触も回復には必要となるが、日常生活での行動や考え方の変化を達成するには同じ体験を持った仲間と出会うことも意味がある。グループの進度とともに参加者に気づきや内省が起こり、同じ体験を持った仲間に共感されているという安心の中で、生き方に変化を実感するような期待がグループの結成に込められているからである。必要なときには存在しており、自分を受け入れてくれるものがグループになる。そして、メンバー達は同じ体験を共有する仲間として一人一人に温かい姿勢を示してくれるだろう。こうした人間関係は子どもの不登校で困惑・混乱した状態にある母親に安心感を与えてくれる。事実、今回の調査で自由記述の部分に「母親教室に参加したおかげで、悩んでいるのが自分一人ではないと分かった」という主旨の記述を調査対象者の62%の者がしている。これは、質問項目にカテゴリーとして明文化されていたものではなく、自由記述である点を考慮すると、かなり高い数値である。この結果からも、実際にグループが1対1のケースでは生み出せない効果を持っており、グループワークとして母親に働きかけるものが多いことを示している。グループへの参加に初めから信頼して身を寄せるわけにもいかないだろうが、試行錯誤を繰り返し、回数を重ねるうちに自分へ用意された場所があると思えるようになるのではないだろうか。そこで経験される現象はすべての参加者に同一で起こるのではなく、時期、内容ともに個人差がある。自分を責めること・一人のからに閉じこもり悩み苦しむことから抜け出し、自分を肯定的にとらえられるようになった者と、そこへ向かって答えを探す者との出会いの中で進んでいくのが母親教室なのである。子どもが学校へ行かなくなると、風当たりとして「親は何をやっているのか」といった批判もあり、近所・校区の中であわせる顔がないと自分を責め・何をしたら良いのか途方に暮れる母親が多い。グループに参加し、体験を共有する過程で自分を価値ある親として前向きにとらえることができるようになれば、家族内でのスパイラルも解消し、子どもとともに親も成長する胎動となるにちがいない。
母親教室参加者への案内文は次の文章である。「このたび(神戸市)総合児童センター・(神戸市)児童相談所では、学校へ行けない子どもの理解を深め、親としてどの様にしたら良いかを一緒に考え、また同じ悩みを持つ親どうしの支えあいを目指して(思春期の子どもを持つ母親教室)を次の通り開催いたします。思春期のお子様のことで悩みをお持ちの皆様方のご参加をお待ちしております。」(第31期案内文より)案内では、理解を深める・一緒に考える・同じ悩みを持つ親どうしの支えあいを目指すとあることから、先に指摘した効果が期待されていると推察できる。この母親教室の特徴は、期間限定で組織されており、担当者に専門家が加わってサポートしている点である。専門家とは、大学関係者・カウンセラー協会・神戸市児童相談所ケースワーカーと心理判定員であり、合計8回の母親教室プログラムにおいて、オリエンテェーション・ストレス、家族のコミュニケーション、きずな・かじとりに関する話・各回の振り返りに関わり利用者の啓蒙に勤める役割を担っている。プラグラム内容は、第1回オリエンテェーション、第2回ストレスについて、第3回家族コミュニケーション、第4回フィードバック、第5回フリートーキング、第6回きずなとかじとり、第7回フィードバック、第8回不登校児のその後についてのゲストトーキングとなっている。家族コミュニケーションの話は母親が親子間の会話を一例記入してもちより、親子のコミュニケーションがどの様になされているか見つめ直す作業
(母親ノート法)であり、家族のきずなとかじとりの話では家族全員が家族関係でのきずなとかじとりの尺度を測定し、結果を把握しようとするワークにより家族それぞれのとらえ方の違いを知ることで参加者が自分を振り返り、成長していくことを援助していくことを目指している。このように母親教室はシステムの下で機能し、進度があらかじめ想定されている。期限を設定していないグループと比較していないので、何とも言えないが、利用者の進度に合わせたものとは言えない側面もあるかもしれない。参加者を予測された情緒的変化へ導くために採用しているプラグラム内容はこのグループの特質であり、一様にこの内容になるべきであるとか、修正すべきであるということを指摘することが本調査の目的でないことは断っておく。母親教室は自由な話し合いを中心に、参加者の主体性を尊重しながら運営されるものであるが、約束事は存在している。それは守秘義務であり、利用者の発言で個人の秘密は口外しないことになっている。利用者のプライバシーを守る義務や、体験を共有することで、グループは他者の感情へ配慮することを訓練として提供しうる。始めから上手く参加者同士の交流が進められるわけではないであろうが、自分を見捨てることのない場をもち、他者を温かく見守り、心の余裕を取り戻し、参加者に成長して欲しいと提供者は願っている。それでは、実際に参加者はグループの運営をどう感じていたのだろうか。母親教室に参加することで何を発見し、参加者自身や子ども・家庭にどのような影響を与える事が出来たのだろうか。提供者側から母親教室への目標と参加者の体験が一致しているのかどうか、参加者の変化に母親教室としての意義を認めることが出来るのか本調査で確認していきたい。