T 不登校研究の理由
登校拒否・不登校問題は今さら話題になったわけではない。これまでにも数知れない論文が発表され、新刊本も次々に出てくる。しかし、解決の兆しは見られず、問題・課題は底をつかない。研究者側に求められる姿勢としては、各専門家間の提言、研究をネットワーク型へと移行させるべきであるという意見が最近はよく聞かれる。これまでは各者各様の思想があり、それが新刊として世に出てきた。民主主義では言論の自由・出版の自由が当然であるが、登校拒否・不登校問題に直面している保護者・教育関係者を困惑・対立させてはいないだろうか。これまで研究には精神医学者・臨床心理学者・教育学者・施設の専門家等によって様々な報告がなされ、また、クライエントの事情も人それぞれなために、事例の数は事欠くことがない。にもかかわらず、問題が激増し続け、社会問題化するにまで至っている理由は、研究による実証的な結果と考察が統一されておらず、ばらばらの状態で生かされたことで、研究成果が社会へ還元し切れていないからではないだろうか。だからこそ各専門家間のネットワーク型協力体制へと協力システムの進化が望まれているように感じられる。私たちが卒業論文として取り組んだ神戸市中央児童相談所・不登校児を持つ母親グループ(以下より母親教室とする)の追跡調査では官と学の共同作業であり、長期的政策のもとで新たな効果が期待できるアプローチを探り出すために予後をデータとして蓄積してゆく一環を担うものであった。一つの解決策が即効性を持つほどに、この問題は単純でない。減少傾向すら見えないが、複雑な社会問題となり、学校制度そのものの価値を問いかけている登校拒否・不登校問題は、経験した者とそうでない者の人生・周囲の環境を長期間にわたって比較・検討することで、彼等と社会の間に生じた歪み・社会システム・制度の変更が求められる問題点を伝えてくれるであろう。その点で、この研究は意義があり、今後も同様の試みは必要だと思われる。
現在の不登校には様々の症状や状態像が含まれ、そこには神経症的な葛藤だけではなく、学校へ行っていない子供達を全体的にまとめて考えていこうとする背景が反映されている。日本の不登校問題は、敗戦後の社会変動でもたらされた、システムそのものと価値観の激変に関連があるとする意見のなかで、時代と社会の発達に会わせて「学校恐怖症」−「登校拒否」−「不登校」と言葉も変わってきた点は原因論を模索する上で大変興味深い。
この卒業論文は、母親教室参加者へのアンケート調査の分析より、不登校児を持つ家族の対策を検討する者になるので、不登校発生の原因・責任を考察することが主な目的ではない。しかし、背景・原因を考えることで、現在の課題を認識し、現代の特徴を捉えることと、課題解決へのアプローチが可能になると思われることから、本論と違った方向へ行かないよう注意しつつ、日本における不登校現象の特徴・その意味するものを考えてみたい。この卒業論文に取り組むことが、単なる不登校への対処療法を示すものにとどまることでなく、その根源を推測し、断ち切るための手段を養うきっかけにしたいからである。