考察

 今回の調査結果より、母親教室は参加した母親だけでなく子どもや家庭ににどのような

影響を与えることができたのか検討する。また、不登校をする子ども自身ではなくその母

親のグル−プワークとしての意義と可能性について考察していきたい。

 まず、子どもの予後に関して見ていこう。表4によると、本調査で不登校現象を表して

いた子どもの25.1%が登校を再開している。そして、塾や家庭教師などの学習環境を受け

入れた者は16.2%にも達しており、41.3%の子どもは学習環境へ復帰している。義務教育

の終了後には何らかの形で進学した子どもが79.5%であった。先に母親が「学校へ行くこ

とが全てではない」ことに気付くことも重要な変化であることを述べたが、結局、母親教

室参加後に約8割の子どもは学習環境に自ら手を伸ばしている。この現状は「学校が全て

ではない」という気付きと一見矛盾しているが、子どもの不登校状態からの変化を導くも

のとして母親の気付きとそれに伴う行動の変化が密接であることは自由記述のコレスポン

デンス分析より明らかである。また、母親教室参加後数年が経った現在の状況では、表7

より在宅のうち外出可・引きこもりと回答拒否を合わせて15.3%の子どもに変化をきたす

ような効果を母親教室は提供できなかったのではないだろうか。これらの者は自分で掴み

取る者をまだ手に入れておらず、それを導く母親の気付きや変化がないか、もしくはそれ

が子どもに波及していないのかもしれない。ただし、通学中の者で表6−2の中退率の高

さから分かるように不登校や引きこもりを再び経験するケースが予想できるが、ここでは

何らかの社会資源への働きかけを子どもの行動の変化と捉えている。逆に様々な資源・要

因の一つとして母親教室が残り74.7%の子どもを不登校状態から発展させる間接的な役割

を果たしていると言えるだろう。

 次に、母親の気付きと行動の変化に始まる子ども・家族関係の変化の経過と母親教室の

役割について調査の結果から推測する。教室で何らかの変化があったと感じることが出来

た人には、引き続き、精神的負担が軽減され、日常生活での活動が前向きなものへと変化

し、子どもの行動にも変化をもたらし、親子関係・家族関係にまで改善の余地を与えてい

ることがコレスポンデンス分析自由記述により明らかになってくる。母親が“気づく”と

は、不登校現象が子どもの問題だけを表出しているのでなく、自分の問題だと理解するこ

とである。これに気づけば、子どもへの対処も変わり、学校へ戻すことが目標であったな

ら、母子関係も楽なものになるだろう。「悩みをうち明けて、本気で相談できる人がいな

い」という母親には、教室の存在が安心して本音で語れる場所ともなりうる。“気づく”

ことに到達し、存在感の変化した母親には、安定感・明るさ・不登校現象が悪いことなの

ではない等の態度を子どもの前で無意識的に実演することになり、子どもは「自分が悪い

ことをしている」という呪縛から解放される。子どもが母親に対する信頼関係を取り戻し、

本当に分かり合えていると感じることが出来たなら、子どもにも、“気づき”によって自

分でつかみ取るものを個人的に体験するだろう。子どもにも、親にも、“気づく”という

体験を提供することが出来れば、不登校児を持つ家族には何らかの好転を、時には劇的な

変化へと、母親教室は導いているのだという結果を、この追跡調査では読みとることが出

来たのである。

 また、母親教室の目標と母親の体験の一致について、グループの提供者は、参加者の成

長を期待しているので、結果では、母親に“気づき”がある場合、参加者はそれに応える

ことを証明できた。“気付き”へ導くことが母親教室のまず第一のハードルになっている

ことは“気付く”ということが、自分で手に入れるもので、提供者側はきっかけを用意す

るにとどまることを示している。“気付き”を発展させた者、新たな自分の居場所として

参加者との間で共感を深めた者は、教室の運営を否定的には考えていないようで、教室に

参加することが不登校現象の母親へ対する精神的負担を軽減することも分かった。母親の

変化が子どもの変化を引き出し、母子の緊張緩和が、夫婦関係・父子関係・家族関係の改

善へと発達していく構図をもコレスポンデンス分析自由記述は示してくれた。一様に効果

が行き渡るわけではないが、もし、参加者に“気付き”が芽生えたとしたら、提供者の目

標と、参加者が時間と共に経験していくドラマは同じ線上にあると言えるだろう。

 このような母親を通した家族関係の変化の目的に基づき、母親教室では独特のプログラ

ム(第2回ストレスについて、第3回家族コミュニケーションについて、第6回きずな・

かじとりについて)を行ってきた。グループ1・2・3では、母親が成長していくことで

「子どもの行動に変化」が起きており、また子どもの変化よりは関連が薄いものの「父親・

家族の変化」も報告されている。これは母親教室が母子の関係性に焦点をあてながら、父

親そして家族の関係性まで影響を及ぼしてきたことを証明しているといえるだろう。

 最後に、今回の調査からは、この結論にたどり着くまでの経過も様々であることがうか

がえたが、自分自身で答えを見つけていくことはどの母親も変わりなかった。子どもが不

登校になった時、母親は驚き動揺する。「一体何が悪くて不登校になったのか」学校、家

庭、今までの育て方、人によって思いつく原因はそれぞれであろう。しかし、不登校を振

り返ることが出来るようになった母親たちの意見は次のように一致していた。「誰が・何

が悪いわけではなかった。確かにきっかけはあったかもしれないが、不登校は私たちに必

要なことだった。」こうして、子どもの不登校という無意識のメッセージを母親・家族が

受け止め始める。家族とは人間関係が絡み合っている集合体である。一人の行動が変われ

ば、相手(父親であれ子どもであれ)の対応も変わる。教室に参加するのは母親であるが、

母親の成長を支援することで教室は家族の成長とも深く関わっている。安心して本音で話

すことができる場として利用してもらうことで、参加者に主観的・客観的な振り返りを促

し、そして参加者が自分自身で答えをみつけていくきっかけの一つとなりうることを、今

までの母親教室は実績として残しているといえる。