はじめに

今、日本は急速なスピードで高齢化が進んでいる。西暦2000年からは公的介護保険が導入される事が決定した。それに伴い、デイサービス・ホームヘルパーなどの在宅サービス、特別養護老人ホームなどの施設サービスの一層の促進がはかられている。また今年から初めて「介護支援専門員」の試験がスタートした。福祉は今後ますます「施される福祉」から「自分達で選ぶ福祉」へと発展していこうとしている。

だがその流れから取り残されている人たちがいる。在日韓国・朝鮮人(以下「在日」と表記する時は在日韓国・朝鮮人を指すこととする。)一世の人たちだ。「在日」一世の人たちも着実に高齢化している。彼らは社会保障の変換の歴史の中で数々の差別を受けてきた。現在に至っても老後の生活基盤である国民年金の受給資格がない人がほとんどだ。また制度上は日本人と同じように福祉サービスを受けられる事になっているが、食習慣の違い・日本人に対しての気がねなどからサービスを敬遠しがちだ。教育を受ける機会がなかったため、日本語はおろか母国語においてさえ識字率が低く行政の福祉情報から取り残されている。つまり彼(女)らは自分達でサービスを選ぶにもサービスがわからない、また現存しているサービスも受け難いという状況なのである。

兵庫県は大阪・東京に次いで全国でも3番目に「在日」の人が多い。(1993、法務省調べ)そしてそのうちの4割近くが神戸市に在住している。だが、神戸市が高齢「在日」一世の現状を知り対応策をこうじるようになったのは1995年におきた阪神・淡路大震災以降のことだ。当時多くの仮設住宅には日本人だけではなく外国人も入居していた。その仮設住宅を定期的にまわってはじめて高齢「在日」一世の人たちの現状が明るみになったといえる。いいかえれば仮設政策に関連付けて対応策が取られるようになるまでは何もなされていなかったし、民生委員等による定期的な見回りもなかった。

これらを通して私の中で今後の高齢化福祉の方向としてこのままサービスを充実させるだけで本当によいのだろうか、今の高齢化政策は行政からみて目に見えている人たちだけを対象にしたものにすぎないのではないだろうかという思いが湧き起こってきた。そこで私は今回、「在日」の人たちが多く住んでいる神戸市長田区を対象にして高齢「在日」一世の人たちの現状を調査することにした。具体的には、

の2点を押さえた上で神戸市長田区と「在日」の人たちの関係、現実を見ていこうと思う。そしてそれらを通して今後、「在日」高齢者に対する福祉のあり方を問い直していきたいと思う。