第五節
神戸市が行っている無年金在日外国人に対する救済措置制度神戸市に「在日」が多いこと、高齢「在日」一世のほとんどが無年金状態であることはこれまで述べてきた。国の政策では不十分な分、神戸市は彼(女)らに対して独自の救済措置を実施している。対象者は必ずしも在日韓国・朝鮮人に限定しているわけではない。しかし神戸市において外国人登録者の6割以上を韓国・朝鮮人が占めること、彼(女)らのほとんどが特別永住権を持っていることなどからほぼ在日外国人=在日韓国・朝鮮人とみて問題ないだろう。
この制度は1998年1月から始まった制度である。支給対象者は
1
月1日以前から引き続き日本国内で外国人登録をしている方1
月1日以前に日本国内で外国人登録をしており、昭和36(1961)年4月1日以後に日本国籍を取得した方おり昭和36(1961)年4月1日以後に日本に帰国した方で、年金受給期間を制度上満たすことができない方となっており、(3)以外の対象者の条件を見てみるとほとんどの在日韓国・朝鮮人一世の人たちに当てはまることがわかる。ただしこの制度は
という条件があると受給できなくなる。支給は月額1万円で年に四回(4月、7月、10月、1月に3ヶ月分支給)の銀行口座振り込みとなっている。
この制度は
1994年4月から始められた制度である。支給対象者は身体障害者手帳1,2級、または療育手帳Aの所持者で以下の理由で無年金になった人である。(1)1986
年4月1日以前に海外滞在中に初診日があり、その傷病により障害者となった場合
(2)
旧厚生年金法の6ヶ月条項等により年金加入後一定期間を越えないうちに障害者となった場合。(3)
年金を受給していたが障害の程度が軽減したために受給権を失権しその後に再び障害の状態が重くなった場合。(4)1982年1月1日の時点で20才を超えていた在日外国人障害者の場合。
このうち特に
(4)の理由で無年金になった場合に焦点を当ててみてみると、対象者の手帳と基準日との関係については基準日において上記手帳(身体障害者手帳1,2級、療育手帳A)を所持する者、または基準日前に初診日があり同日以後に上記手帳を所持する者となっている。また外国人登録をした年月日と受給との関係については基準日において日本国内に登録している者であれば、いつ神戸市に登録しても適用されるとなっている。この制度も神戸市在日外国人等福祉給付金制度と同様に公的年金受給者、生活保護受給者、一定以上の所得がある者は支給対象から除外される。始まった当初は月額3万6千円が支給されていたが、1998年4月から月額4万6千円が支給されるようになった。
これらの措置制度ができたのは、年金を求める当事者運動と民団
(在日本大韓民国民団)や総聯(在日本朝鮮人総聯合会)による働きかけが大きかったからだろう。「運動は二つの柱から成っている。一つは、国民年金制度の抜本的改善を求める働き掛けを厚生省に対して行うことであり、他の一つは、そのことが実現するまでの間、暫定的措置として、自治体独自の救済制度を設けさせるための働きかけを地元自治体に対して行うことである。(略)自治体に独自に救済制度を設けさせるにはそれだけの理論構築が必要である。なぜなら、国民年金は国の制度であり、その不備のために無年金となった者を自治体が救済する義務はないとされるからである。」 注1:)といわれているようにその苦労は並みならぬものだったと思う。だがこの救済措置制度も十分なものとはいえない。まず支給金額が低いことがあげられる。神戸市在日外国人等福祉給付金にいたっては月額たった1万円である。これで老齢年金の代わりにというほうが無理な話である。年金を全期間納めた人で月額6万6千円ほどをもらっている
(1998年)ことを考えれば、年金に加入したくてもできなかった「在日」に対する救済措置にしてはあまりにも乏しい。また無年金障害者に対しても支給額があがったとはいえ、一般の障害基礎年金額と比較するとその半分ぐらいである。次に開始日があまりにも遅すぎる。神戸市在日外国人等福祉給付金が支給され出したのは今年(1998年)の1月からだし、無年金障害者に対する給付金にしても1991年からだ。いいかえれば90年代になるまで神戸市は「在日」に対して何の救済措置もしていなかったことになる。全国でも「在日」の占める割合が多いこの街がこのようなことでよいのだろうか。注
1:)空野 佳弘/高 賛侑 「在日朝鮮人の生活と人権」 (明石書店 1995年8月31日)P79 L11〜18