第三節
在日韓国・朝鮮人一世の将来に対する考え方将来のことについて
将来に対する心配事
Aさん:市営住宅に移り住んでからの生活全般について不安である。今住んでいるところからはなれているため、病院の通院、息子のデイサービス、作業所をどうするかまた自分達を受け入れてくれる人間関係が新しいところで築けるか心配である。あと息子の痔の手術代も頭の痛いことである。息子のことで精一杯で自分のことまでかえりみる余裕がない。
「まあ、この子が健康やったらあれやけんど。」
「私は出歩いたらいいけんど、これがな、慣れとらへんし。もうここまでこられんもん。まず遠い市営住宅にうつったら通いなれた作業所に通ってこられんやん。」
「病院にずっとかよってるわけなの。息子さんもAさんも。そしたらそこにくるのがやっぱり大変なわけ。年老いたAさんが息子さんをひいてくるわけにもいかないしね。」(Rさん)
「生まれも育ちもこの界隈だから、Aさんと息子さんのこと知ってるひと多いじゃない。だからこけて倒れても知ってる人が助け起こしてくれるのよ。でも全然知ってる人がいないところに行ったら、最初から人間関係をやり直さなくちゃいけないでしょ。」(Rさん)
「病院の近くの住宅にしてくださいって言ったのに4回ともみごとにすべってね。今、中古の市営住宅だけど、病院の近くに四軒ほどあいてるって聞いたからそこに変えてくださいって役所に頼んだら、それは不平等だっていわれたの。」
Bさん:将来、とくに困っていることはない。もう
91才だからあきらめの心境がある。外に出ることも少ないし、気もふさいでくるから、とくに希望することもない。Cさん:今が精一杯で将来のことまで考えていない。長男夫婦と同居していることもあって将来心配していることもない。
「別に金はないけれども、今は息子がくれるから苦労せんわおもて。なくても生きてきたんやから、くれにゃもらわんでもええわいうてな。」
「もう、今が精一杯。字が読み書きできんことが情けなくなる時もあるしな。」
困った時、だれに相談するか
Aさん:困った時はRさんのように事情をよく分かっている人に相談しようと思っている。民団
「民団だめ。民団なんかこんな相談これっぽちもしてくれへんで。なにひとつでも相談に行ったら、ああそうですかいうてな、偉そうに座ってな。震災後も一回きりきただけや。困ったことがあったら民団に相談しにきなさいってなーにが相談できるの。」
「マイナス面ばかりじゃなく、民団だってね、立派な事業をやってるところもあるけれどもでもやっぱり弱者になかなか目が行きにくいって言う欠点はあるのね。」(Rさん)
(神戸市には「在日」の方が多いのにそういう専門の窓口もないんですよね。)
「ないない。」
Bさん:困ったときに一番に相談するのは長男だが、今後も一緒に住む気はまったくない。
1人で住むうえでの苦労があったとしてもやはり一緒には住みたくない。Cさん:困った時は同居している長男夫婦に相談する。
福祉サービスについての認知度、権利意識
Aさん:震災後、ボランティアや役所の人が仮設住宅に定期的に見回りに来てくれたおかげで比較的福祉サービスについては知っているし、利用もしている。生活保護の手続きもホームヘルパーの手続きもすべて役所の人がしてくれた。車椅子や松葉杖も役所から支給してもらっている。
Aさん自身はもし民族性の配慮されたデイサービスがあれば将来行ってみたいと思っている。
「生活保護やヘルパーさんの手続きは役所がしてくれた。」
「車椅子や松葉杖も福祉からや。世話になっとうからいつも気がこまーなってもて。」
(Aさんはも将来デイサービスにいってみたいとおもいますか。)
「うーん、そうやな。年取ったら。チャンゴたたいて、朝鮮民謡歌って、キムチ食べてみたいなところやったらね。とにかく黙って座ってるだけやったら時間がもったいないなーっておもうねん。」
Bさん:日本の福祉サービスをあまり利用したいとは思わない。期待していないし、自分に合うところを探す能力もない。もし仮に「在日」だけを対象にしたサービスがあったとしてもあまり期待していない。将来からだが不自由になっても施設には入りたくない。その時は病院にいれてもらう。今のところひざが少し痛いだけなのでたぶん大丈夫だろう。
Cさん:難しいことは子供たちや同居している長男のお嫁さんに頼りきっているので福祉サービスについてはよくわからない。年を取っても施設に入らずに家にいたいと思っている。そして自分達(Cさんと夫)の世話は長男の嫁や息子たちがしてくれるだろうと思っているがそのことについて深く考えたことはない。
(
体が不自由になったら役所の施設に入りたいと思いますか。)「思わない。まあ、年を取ったらな、家がええ。」
(
今はCさんも御主人もお元気ですけれども、もしお2人とも体の具合が悪くなって介護が必要になったらお嫁さんはかなり大変になりますね。)「その時は息子らが見てくれる。そういうことあんまり考えん。今が精一杯やから。」
注
1:)民団とは「在日本大韓民国民団」の略。韓国が朝鮮半島における唯一の正統政府という認識のもとに成立し、「在日」の法的地位の安定と権利擁護にとりくんでいる。韓国に行くための窓口にもなっており、いろいろな手続きが民団をとおさないと取り難くなっている。そのためいやおうにも民団に束縛されるという指摘もある。