第二章
神戸市長田区に在住している在日韓国・朝鮮人一世の声今、日本は盛んに高齢化社会がいわれているが、もう一つの高齢化も確実に進んでいる。在日韓国・朝鮮人一世の人たちだ。彼(女)らの多くは日本の朝鮮侵略の犠牲にあい海を渡って日本にきた。日本の植民地政策によって土地や職を奪われ日本に移住してきたり、戦前の強制連行・強制労働など苦しい時代を過ごしてきた人たちだ。だからこそ在日韓国・朝鮮人一世の人たちは豊かな老後を送る権利があるのだが、実態は日本の高齢者福祉政策から取り残され、放置されているのである。
神戸市長田区には多くの在日韓国・朝鮮人の方達が住んでおられる。その中には65歳以上の高齢在日韓国・朝鮮人一世の人たちも多い。制度上は高齢者サービスに国籍条項はなく、「在日」高齢者の方達も日本人と同じようにサービスを受けられるようになっている。だが、サービスはあるだけでは何の役にも立たない。利用してこそサービスだ。高齢「在日」一世の人たちの多くは教育を受ける機会が与えられず、日本語はおろか自分達の母国語でさえ読み書きできない人が多い。だからサービスそのものの情報を得ることが困難である。その上サービスを利用したとしても言葉の問題や食生活・生活習慣の違い、日本人になじめないなどで疎外感を感じる人も多い。役所としてはサービスを用意するだけではなく、民族的考慮を配する必要もあるのではないだろうか。
これらのことをふまえて私は神戸市長田区に在住しておられる高齢「在日」一世の人たちが置かれている状況を知るためにヒアリング調査を行うことにした。彼(女)らの置かれている現状を過去・現在・将来の3つの視点から捉え、彼(女)らが福祉サービスをどのくらい知っているか、福祉サービスに対してどう思っているか、行政に対してどのような要望があるのかを知りたいと思ったからだ。ヒアリング調査にしたのは統計的数値を出すことは神戸市長田区における高齢「在日」外国人の実態が把握されておらず私一人では到底無理であること、実際の生の声を聞くほうが彼(女)らの真の状況を把握しやすいと考えたからである。
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、調査対象者神戸市長田区に在住しておられる
A
さん(75才) 1級の障害者手帳を持っている息子さん(46才)と仮設住宅で二人暮らし。年金はなく生活保護を受けている。Bさん
(91才) 市営住宅にひとりぐらし。無年金だが、生活保護をうけている。震災前も震災後も長男のお嫁さんと折り合いが悪いため 長男夫婦とは同居していない。日常生活のことはたいていお嫁さんがきてしてくれる。日本語は聞いて理解することはできるが喋ることができないため、Rさんが通訳に入ってのインタビューとなった。C
さん(70才) 夫と長男夫婦、孫たちと三世代同居。毎週土曜日に長田文化会館で行われている識字教室「ひまわりの会」に通っている。年金はなく息子の扶養で生活している。3
、調査内容現在の状態
・性別、年齢
・健康状態 現在、介護が必要な状況か、また将来介護が必要になる可能性が高いかを知る。
・家族、親族、近隣との相談、社会的支援について 本人を取り巻く社会的要素を知る。
・家計、経営、就労の変化、公的年金・生活保護の加入状況
本人の経済的基盤を把握することで今までどのように生活して生きたのか、また将来どのように生活していこうとしているのかを 知る。
.住宅 現在どのような住居形態か。それによって不都合は生じていないか。もしくは将来不都合を生じさせる可能性があるかを知る。
・日常生活の様子 本人の一日の生活の流れと一週間の生活の大まかな流れを知る。
ライフヒストリー
・来日時期 何時ごろ、どういう形態
(結婚のためか、親と一緒か、独りできたのか…etc)を知る。この事がその後の生活状況に大きく影響するのではないか。・受けてきた教育 最終学歴、きちんと学校へ行けたか。識字ができるのとできないのとでは就労の経緯に影響が出るのではないか。また就労の内容によって健康状態、厚生年金の有無にも影響が出ると思われる。
将来のことについて
現在の状況・ライフヒストリーを踏まえて抱えている不安を聞いていく。自分のことだけでなく、家族のことについての不安もあるだろうと思う。
・困ったとき誰に相談するか 本人の置かれている社会的環境によって違ってくるだろうと思われる。
・福祉サービスについての認知度、権利意識
日本の高齢者福祉サービスをどの程度まで知っているか。また利用したいと思うか。また利用したくないと思っているのならその理由は何か。サービスのどの点が不満か。不備な点はどこか。行政に対してどのような要望があるのか。