説明スタイル測定の尺度について

 Seligman(1991)は、自らの説明スタイルについての定義に基づき、説明スタイルの楽観度を測定する尺度として、ASQ(Attributional Style Questionnaire)を作成した。これは48項目からなる2択式の質問紙である。また、その児童用としてCASQ(Children Attributional Style Questionnaire)を開発した。また、説明スタイルに関する質問紙は、ASQの以降これまでにいくつか作成されてきた。欧米においては、ASQを改訂した新しい尺度が2種類作成されている。

@EASQExpanded Attributional Style Questionnaire ; Peterson & Villanova,

 1998年に作成され、その日本版は成田らによって1990年に和訳されたものである。これは、欧米における改訂学習性無力感の研究においては、負の事象についての説明スタイルが学習性無力感に対して大きく関係していたことに基づき、24の負の出来事のみから構成されている。日本版についてはこれを翻訳し、22の負の出来事から構成されるものであり、信頼性が確認されている。

AASQ-EMetalsky & Joiner,1992

 EASQExtended Attributional Style Questionnaire ; Metalsky, Halberstadt, & Abramson) と CSQ(Cognitive Style Questionnaire)を合わせたものであり、従来の3次元に「自己に対する認知」「結果に対する認知」の2次元が加えられている。従来のものよりも次元設定が日本の現状に即していると考えられており、1993年に藤南、園田、詫摩が信頼性を確認している。

 以上の2種の尺度はいずれも負の事象のみから構成されており、自由記述式の質問項目を含んでいる。そのため、各次元ごとの合計得点の内的一貫性が高い。しかし、日本では負の事象よりも正の事象についての説明スタイルが主である。また、自由記述方式は回答に時間と体力を要し、回答そのものがストレス因になりうるため、他の質問紙と組み合わせて実施することが困難であり、因果関係などの研究での信頼性に疑問がある。さらに、自由記述方式では対象者にある程度の柔軟性・知的レベルが要求され、一般的な社会人や子どもを対象とした調査には、かなりの困難が伴うことが指摘されている。

 また、説明スタイルを測定する際に場面を分類した上で測定するような尺度も開発されている。日本においては樋口(1983)は児童を対象として、学業達成場面における各種成功・失敗要因(努力、能力、体調・気分、課題、運の5要因)に対して自己評定をさせることで、説明スタイルを測定する尺度を開発している。村上(1989)は大学生を対象として、この樋口(1983)の尺度とSeligmanASQを参考に、課題達成領域と対人関係領域の2領域に分類した上で、正・負の事象に対する説明スタイルを測定する尺度を作成している。また、桜井は1992年に大学生を対象として、学業達成場面と友人関係の2領域それぞれにおける負の事象を設定した上で説明スタイルの尺度を作成し、さらに、学業達成の失敗場面毎に原因を配置して、その程度を評定する具体的説明スタイル尺度を作成している。領域を特定して行うこれらのような調査方式は、特定場面での理論モデルの検討に有効であり、かつ内的一貫性が高まる。しかしその一方で、対象者や領域が限定されてしまい、広範囲な調査を行うことができない。

 それに対し、SeligmanASQは、正負いずれの事象についても帰属様式の検討が可能である。また、選択式であるため実施が容易であり、回答が簡潔である。そのため、因果関係の研究においての信頼性が期待され、広範囲に利用が可能である。さらに、能力・社会的にあらゆる対象者に対して行うことが可能である。以上のような利点があり、今後行われる子どもの説明スタイルの研究において最も有用であると考えられるため、子どもを対象とする楽観的説明スタイル測定用紙の日本版としてのCASQ-KGを作成し、本研究における、日本の子どもたちの楽観的説明スタイルとストレスの関係についての調査紙とする。