ストレス測定尺度について

 ストレスに関する測定尺度は様々であるが、日本で用いられてきた測定尺度としては、ストレッサーに関する尺度のほか、Goldberg(1972)によるGeneral Health Questionnaire(GHQ)、新名ら(1990)による心理的ストレス反応尺度(PSRS)、阿部ら(1989)によるストレス反応尺度、鈴木ら(1996)によるストレス反応尺度短縮版など、ストレス反応を測定するものと、木島ら(1997)によるストレス・コーピング・スキル尺度(SCSS)や三浦・坂野(1995)による中学生用コーピング測定尺度、寺下ら(1989)によるストレス対処尺度など、ストレスコーピングに関する尺度が挙げられる。

 本研究は、ストレス状態と説明スタイルの関係を測定することを目的としており、これを測定するための尺度として1972年にGoldbergらが開発したGeneral Health Questionnnaire(日本名:精神健康調査票、略称:GHQ)を用いた。日本版GHQ手引き(中川・大坊、1985)によれば、GHQは非気質性、非精神病性の精神障害のスクリーニングテストであり、神経症症状の発見や把握を主たる目的とするほか、うつや緊張を伴った疾患性など、精神的な健康度を測る質問紙として世界各国でよく用いられている。また、数々の研究によってその因子構造が年齢群や性別によって変化しない可能性をも示唆されている。GHQ質問紙作成においては、1962年のVeroffらの研究に基づいて項目を作成している。Veroffらの研究は一般病院の外来患者500名を対象に「適応」と「苦悩」についての詳細な面接を行い、その結果を解析したところ、不幸・心理的障害・社会的適応障害・自信(精神的、身体的)の欠如、の4因子を抽出した。この4因子をもとに、精神的健康度の因子を4因子想定し、以下のように定めた。

  1. 身体的症状(自信欠如による心気症的問題に関する因子)
  2. 不安と不眠(心理的障害に関する因子)
  3. 社会的活動障害(社会的適応障害に関する因子)
  4. うつ状態(不幸に関する因子)

としている。この定義は、上記で示したストレス症状とほぼ一致しており、ストレス状態の尺度として用いることができる。

 成田(1994)によれば、70年代より始まったGHQ研究は、成人を中心に行われてきており、子どもを対象としたものは極端に少ない。これはもともとGHQが子どもを想定して作られておらず、子どもにGHQを実施するのが容易でないためであるが、「精神健康調査票手引き」によると、中学生以上における尺度としての有効性は、既に認められている。特に80年以降、青少年を対象としたGHQ研究の論文が増加しており(成田、1995)、若年層におけるGHQ研究が注目されているといえる。

 短縮版でその有効性が認められているものには、GHQ60項目の回答結果より抽出された6因子(一般的疾患性、一般因子、身体症状、睡眠障害、社会的不全、重篤な抑うつ)に対して各5項目からなるGHQ30と、これをさらに簡潔化したGHQ28(身体症状、不安と不眠、社会的不全、重篤な抑うつの4因子×各7項目)がある。わが国では大坊・中野(1987)が、28項目版と30項目版について、60項目版と同等の機能を確認しているほか、成田(1996)は日本の女子青年を対象としてGHQ28の因子的妥当性および信頼性の検討と因子構造の分析をしており、いずれの点においても十分な信頼性と構造を見出した。これらのように短縮版についても、とりわけGHQ28GHQ60との相関が高く、その信頼性が高く評価されている。

 本研究においては対象者を子どもとしているため、質問項目の多さがストレス因となりやすいと考えられる。そのため、GHQ28を用いて子どものストレス状態を測定することとする。また、GHQの対象年齢が12歳以上であるため、説明スタイルとストレスの関係についての調査対象を中学生とする。