説明スタイルについて

 説明スタイルとは、Seligman(1990)の定義によると、物事の原因に対する説明スタイルには楽観的なものと悲観的なものとがあるとされている。楽観的な説明スタイルとは、自分にとって良い出来事(正の事象)が起きたとき、その出来事の原因を内的(自分自身に原因があるとする)・永続的(これからも長く続く)・普遍的(あらゆる場合に作用する)に捉えるものである。それに対して、悪い出来事については、これとは逆に外的・一時的・特異的に捉えるものである。

 このような説明スタイルの応用が最も有効であるのは、健康増進、成績や業績の向上、鬱病の治療の3分野においてである。とりわけ、鬱病の治療に対しては学習性無力感などの学説が唱えられ、多くの研究が行われている。これらの3分野における説明スタイルについて以下にまとめていく。

@. 健康増進

 一般に肉体的な健康は完全に肉体的なもので、体質や健康習慣、衛生状態の改善によって決定されると考えられている。しかし、考え方つまり説明スタイルによって健康状態が変わることが指摘されている。具体的には楽観的説明スタイルを持つ人(オプティミスト)の方が悲観的説明スタイルを持つ人(ペシミスト)よりも感染症にかかりにくく、健康的な習慣を持ち、免疫力があり、長生きであるということが証明されている。

A. 成績や業績の向上

 Seligmanらが長期にわたって行った様々な研究によると、学齢期の子どもを対象として行った研究においてはオプティミストが好成績をあげた。同様に、大学生や保険の外交員、兵隊を対象とした調査においてもオプティミストがペシミストよりもよい成績・業績を上げたことが明らかになっている。この原因として、楽観主義は失敗しても挫折しないねばり強さを引き出すこと、勉強や仕事が辛くなったときの支えとなることなどが考えられている。しかし、オプティミストはしばしば物事を自分の都合の良いように解釈する傾向があり、現実を正確に評価するという点においてはペシミストの方が優れた能力を示す。そのため、組織の中においてはオプティミストとペシミストが互いの長所を生かすことが重要となることが指摘されている。

B.鬱病の治療

 鬱病は様々に分類されるが思考・気分・言動・肉体的反応において否定的になる変化を伴うという点で同じ特徴を持ち、このような変化が鬱病全般の診断の基準となる。1978年のSeligman Abramson Teasdaleの学習性無力感仮説の改訂に伴い、抑うつ傾向と説明スタイルとの関係が重要視されるようになった。この改訂版学習性無力感仮説は抑うつ傾向の強い人には特定の説明スタイルがあるとするものである。これに基づき、Seligman, Abramson, & Semmel 1979年に説明スタイルを測定する尺度(Attributional Style Questionnaire : ASQ)を開発し、説明スタイルと抑うつ傾向との関係を調べることによって、負の抑うつ的説明スタイルを発見した。同様にSeligman, Peterson, Kaslow, Tannebaum, Alloy, & Abramson 1984年に、児童に対する調査を行い、正・負両方の抑うつ的説明スタイルを見出した。更に1986年のNolen-Hoeksema, Girgus, & Seligman では、子どもたちの持つ正・負の抑うつ的説明スタイルが抑うつ傾向に影響していることが確認された。また、Seligman.M.E.P(1995)の研究によると、アメリカでは全体の4分の1の子供たちがうつ状態にある。この問題を解決するため、Seligmanは同僚たちとともにPenn Depression Prevention Projectと呼ばれる長期の調査を行った。調査結果に基づき、彼らはうつ状態の解決法として子供たちに楽観的説明スタイルを身につけさせることを考案し、両親や教師がすべての年代の子供たちに楽観的説明スタイルを教える方法を開発した。説明スタイルを楽観的なものに変えることによる鬱病の治療が大きな成果をあげたことにより、悲観的説明スタイルが鬱病の原因となることが明らかになった。

 日本においては桜井(1989)が児童用絶望感測定尺度を作成し、樋口ら(1983)の原因帰属様式測定尺度を用いて子どもの抑うつ傾向と説明スタイルの関係を検討している。その結果は絶望感の高い者ほど成功の原因を外的に捉えるという点は改訂版学習性無力感仮説に合致していたが、絶望感が高い者ほど失敗の原因を努力(内的・一時的要因)に帰属していた点では矛盾していた。この研究結果は、樋口ら(1983)や桜井(1987)と通じるところがあり、桜井(1989)はこの結果に対して日本に特有の“努力万能主義”や自己防衛的な説明スタイル傾向、社会的望ましさに原因があるという考察を行っている。しかし、サンプル数が188名と少ないことを始め、質問項目が日本の文化にそぐわない物を含んでいる点、説明スタイルの領域が学業達成に限られている点、分析が相関分析しか行われていない点など様々な課題が残されている。

 前項で述べた通り、ストレスは内因性精神障害を引き起こすものであるが、そのうちの1つである鬱について、上述のような説明スタイルとの関係を調べた研究が数多く行われている。抑うつに対して楽観的説明スタイルを身につけることは、抑うつに陥る危険性を減らすだけでなく、学校生活の質を高め、精神病を解決し、子供たちに必要な独立独行を身につけさせ、彼らが思春期の青年や大人としてやっていく力を与える。また、上述のように、個人の考え方の改革がストレス軽減に大きく貢献するであろうことが推測される。また、ストレス状態の結果として想定されている社会的不適応についても、桜井(1991)により説明スタイルとの関係性が示唆されている。

 以上のことから、本研究においては日本の子どもたちのストレスと楽観的説明スタイルとの関係を調べることとする。