考 察
調査1では、過去のさまざまな説明スタイルに関する尺度研究の欠点を補い、より日本の子どもたちに適したシンプルな質問紙を作ることを試みた。項目作成の段階から質問紙実施、および結果分析までのすべての作業を、他チームと合同の計5人で行ったため、〔1〕より洗練された項目ができる、〔2〕より多くのサンプルが得られる、〔3〕データの入力や分析段階でのミスが軽減される、などのメリットがあり、かなり良い結果が期待された。しかし、期待したほどの高い相関や因子構造は得られず、反省すべき点が多々あることを認識した。
第一に、被験者の幅を広げすぎたことが挙げられる。「学校と子ども」にこだわるあまり、対象者を小学5年生から高校3年生までと欲張り、著しい成長段階にあるティーンエイジャーを、一括りに「子ども」という枠で調査を行った。その結果、対象学齢層によって異なるデータ構造が見られたのにもかかわらず、同じ枠内で分析したため、全体としての妥当性を下げてしまった。
対象年齢毎のサンプル数のばらつきや、男女比などを考慮に入れなかったことも、原因であると思われる。特に楽観度の男女差を指摘する研究は多く(Gladstone,T,G. et al.,1997ほか)、今後は年齢別、あるいは男女別といった詳細な分析が求められる。
また、特に中学生および高校生においては、質問紙を施行した時期が、学期末試験の最中もしくは直後であったことも、結果に影響を及ぼしたのではないかと考えられる。テストは学齢期の子どもたちにとって大きな心理的ストレスであり、またその結果もストレスとなりうる。子どもの説明スタイルと算数の成績との関係を調べたYates,S.M et al.(1995)は、CASQと成績との間に高い相関関係を見出していると同時に、相対的にみた男子の抑うつ性の高さにも注目している。このように、心理的に特殊な状況下では、安定した説明スタイルを測定することが困難である可能性が高い。
以上のような課題はあるものの、十分な実用性を持つ日本版CASQを作成するという本調査の目的は達成されたと言える。上述した多くの利点を兼ね備えたCASQ-KGが作成されたことは、とりわけ、様々な領域における子どもの説明スタイル研究に応用できるという点で、おおいに意義があると考えられる。