考 察
調査2では、子どものストレス状態を説明スタイルとの関連において説明するために、CASQとGHQとを試験的にかけ合わせた。その結果、理論上導き出されるおおよその相関関係が認められたが、個人度に関わる説明スタイルと精神的健康との関係についてのみ、異なる解釈を迫られた。
個人度の次元を、その他の次元とは異なったものとして位置付けている研究は少なくない。沢宮・田上(1997)も、作成した楽観的帰属様式尺度とY-G性格検査との相関関係において、内在性(=個人度)次元が他の永続性や全体性(=普遍性)の次元とは異なるという結果を見出しており、本調査との関連性が考えられる。さらに、個人度は抑うつなどの絶望感に直接つながるものではなく、自尊心と非常に密着な関係にあるという報告もある(Abramson et al.,1989)。セリグマン(1991)自身も、悪い出来事に関する個人度に限って、特に「自尊心」という言葉を用いて説明している。すなわち、悪いことが起きた時に自己を責める(内向的)傾向にある人は自尊心が低く、逆に他の人や状況を責める(外向的)のは自尊心が高い人だというのである。
これらのことから、本調査において、個人度に関わる説明スタイルが楽観的であるほど精神的健康度が低かったのは、自尊心の高い人ほどストレス状態を感じやすいことが表れた結果だと考えられる。すなわち、個人度において楽観性の高い人=自己を高く評価している人ほど、その評価を損なうものとして少しのストレスでも敏感に察知しており、その結果、GHQテストでは高いストレス状態が測定されるのである。
また、序論において述べたように、物事の原因を内的なものに求め、自己統制ができる人ほどストレスに強いことから、内向的な説明スタイルがストレスを退ける働きをもつことも、この分析結果の一因として考えられる。悪い出来事において内向的な人は、原因帰属の視点に立てばペシミストであるが、自己統制という観点から見れば、ストレスへの対処能力に優れている可能性があるといえる。
しかし、以上はあくまでも仮説であり、個人度と自尊心、自己統制、そしてストレスとの関連については、今後さらに検討を重ねていく必要がある。
個人度以外の変数、すなわちCASQ-KG全体、永続性、および普遍性と、GHQ28の全体および4つの下位概念との間については、概して「オプティミストほどストレス状態は低い」という予測通りの結果が得られた。本研究によって子どもの説明スタイルの楽観性と精神的健康度との関係性が認められたことから、日本の子どもたちが楽観的な説明スタイルを身につけることは、子どもたちのストレスを解決する有効な手段となりうることが示された。今後さらなる説明スタイル研究がなされ、子どもを巡る諸問題を解決する一助として広く用いられることを期待する。