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.方法調査内容
カウンセリングルームに対するスティグマの度合いとカウンセリングルームへの心理的・社会的距離、そして自意識に関する項目という三つの尺度による質問紙調査を行った。いずれも“まったくあてはまらない・あまりあてはまらない・どちらともいえない・ややあてはまる・よくあてはまる”の1〜5の五段階による回答形式を採用した。これにフェイスシートとして学部・学年・性別と「心のケア」に関するアンケートを付け加えた。
調査対象
関西学院大学の男女学生のうち、乱数表を用いてランダムに抽出した社会学部の授業と3,4回生の研究演習の学生に調査の協力を求めた。ただし、研究演習の受講生は社会学部の学生のみであるが、授業の受講者には社会学部以外の学生も含まれている。質問紙の総配布部数は323部、うち回収部数は279部であり、回収率は86%であった。そして一問でも回答に記入漏れがあれば無効回答と見なし、該当する7部を除いた272部(男子101部、女子171部)を分析に用いた。
調査期間
質問紙はすべての授業とゼミにおいて授業時間内に配布、授業終了後もしくはその場で回収された。1998年11月30日より12月4日までの5日間で実施した。
測定尺度
<スティグマ尺度>
1981)
(項目番号)
Q1.カウンセリングルームに行く事で、周囲から距離をおかれだろう。
Q6.カウンセリングルームに行く事は特別な事ではない。
Q8.カウンセリングルームに行く事で周囲から特別視されるだろう。
Q21.カウンセリングルームに行く事で普通でなくなる気がする。
Q25.どんな人でも、カウンセリングルームに行く可能性はある。
A恥:恥の意識(sense of shame)はスティグマの感情のひとつである。(スピッカー、1987)
(項目番号)
Q2.カウンセリングルームに行く事は、隠す事ではない。
Q4.カウンセリングルームに行く場合、人目が気になる。
Q14.カウンセリングルームに行くという事は、恥ずかしい事である。
Q22.カウンセリングルームに行くと、周囲の噂の的になるだろう。
Q26.堂々とカウンセリングルームに行く事ができる。
Q31.カウンセリングルームに行く事は、笑われるような事ではない。
B尊厳の喪失:「他者の態度はスティグマを負った人にとって究めて重要である。スティグマを負った人間は尊厳を失い、その当然の結果として恥辱を感じる」(スピッカー,1987 p76)
(項目番号)
Q3.カウンセリングルームに行く事は屈辱的な事ではない。
Q7.カウンセリングルームに行く事は、周囲から哀れまれる事ではない。
Q10.カウンセリングルームに行く事で、プライドが傷つく。
Q15.カウンセリングルームに行く事は、周囲から蔑まれるような事ではない。
Q19.カウンセリングルームに行く事で、周囲から見下されるだろう。
Q29.カウンセリングルームに行く事で、周囲から同情されるだろう。
C依存:「彼ら(注:スティグマを負う人々)の依存状態そのものが却って、社会関係の正常な形から彼らを遠ざけるのに役立つ」(ibid
p225 )
(項目番号)
Q12.カウンセリングルームに行くのは、私が自分の事も自分でできないからだ。
Q13.カウンセリングルームに行くのは、私が他人に依存しているからだ。
Q16.カウンセリングルームに行くと、周囲から依存していると思われる。
Q17.カウンセリングルームに行くと、周囲から甘えていると思われる。
Q20.カウンセリングルームに行くと、周囲から自力で問題解決できない人だと思われる。
Q23.カウンセリングルームに行くと、周囲から自立できいない人だと思われる。
Q27.カウンセリングルームに行くのは、私が未熟だからだ。
Q30.カウンセリングルームに行くと、周囲から未熟な人だと思われる。
D孤独:「スティグマを負った人々は孤立しがちである。」(
ibid p194)(項目番号)
Q5.周囲に相談相手がいても、カウンセリングルームに行く事もある。
Q9.カウンセリングルームに行くと、周囲から交友関係に乏しい人だと思われる。
Q11.カウンセリングルームに行くと、周囲から私は専門家以外誰にも相談に乗ってもらえないと思われる。
Q18.カウンセリングルームに行くのは、周囲に相談相手がいないからではない。
Q24.カウンセリングルームに行くと、周囲から悩みを話せる相手がいないと思われる。
Q28.カウンセリングルームに行くのは、周囲に手助けしてくれる人がいないからではない。
この質問用紙において、我々は作成段階において五つの下位概念による質問をランダムに配置している。回答形式は「よくあてはまる」(5点)から「全くあてはまらない」(1点)間での5件法でスティグマを感じる度合いが高いほど高得点になるように得点化する形式を採用した。また、Q2,3,5,6,7,15,18,25,26,28,31の
11問については得点を1から5まで逆につけて計算した。
<カウンセリングルームへの距離尺度>
我々は「心のケア」に対する心理的距離を測定する尺度として「カウンセリングルームへの距離」という尺度を作成した。(心のケアでなくカウンセリングルームと限定したのは、解答者に具体的なイメージを与えるため。)これは「期待」「認知」「関心」「必要」「マイナスイメージ」の五つの因子からなる。以下、五つの下位概念の説明を行う。
@期待:カウンセリングルームでのケアに何らかの効果があると思っていること。
(項目番号)
Q6.カウンセリングルームは自分の悩みに解決の糸口を与えてくれると思う。
Q9.カウンセリングルームに行けば、気持ちが楽になると思う。
A認知:カウンセリングルームの存在そのものを知っていること。
(項目番号)
Q1.カウンセリングルームの存在を知っている。
Q5.カウンセリングルームで行われていることについて知っている。
B関心:カウンセリングルームに行ってみたいと思うこと、あるいはそこで行われていることについて知りたいと思うこと。
(項目番号)
Q2.カウンセリングルームがどんなところか興味がある。
Q3.カウンセリングルームをのぞいてみたいと思う。
Q8.カウンセリングルームに相談に行ってみたいと思う。
Q10.カウンセリングルームについて詳しく知りたい。
C必要:カウンセリングルームに行くことを必要と感じていること。(特定の人だけでなく自分を含めて多くの人にとって)
(項目番号)
Q13.カウンセリングルームは自分にとって必要だと思う。
Dマイナスイメージ:カウンセリングルームについての否定的なイメージをもっていること。)
(項目番号)
Q4.カウンセリングルームを身近に感じる。
Q7.カウンセリングルームは訪れにくい場所だと思う。
Q11.カウンセリングルームは自分とは別世界だと思う。
Q12.カウンセリングルームは利用しやすい所であると思う。
この質問用紙においても我々は作成段階において五つの下位概念による質問をランダムに配置している。回答形式は「よくあてはまる」(5点)から「全くあてはまらない」(1点)間での5件法で距離が近いほど高得点になるように得点化する形式を採用した。またQ7.11では、得点を1から5まで逆につけて計算した。
<自己意識尺度>
自己意識尺度の日本語版作成は菅原
(1984)や水田(1986)によって試みられてきており、それぞれが自己意識の測定が必要とされる研究において頻繁に用いられる。我々が本研究で使用するものとして望ましいのは、積み重ねられてきた改訂版のうち、我々の調査対象と同じ大学生を対象にした調査を経て精選された尺度で、なおかつ比較的新しい尺度のものである。その条件に該当する尺度として選んだものが、中と桜井の日本語版自意識尺度の決定版(1992)である。彼らは独自に作成した日本語版自意識尺度23項目から、回答に男女の性差の見られない項目と、性差が見られても項目−得点相関の高い項目の計18項目を新たに抽出し、男女共通の自意識尺度を再構成している。以下、下位概念の説明を行う。
@公的自意識尺度:「他者との関係性のなかでの自己、他者から見られている自己に注意を向ける傾向のある因子」をもつ11項目から成る尺度である。
(項目番号)
Q1.人が私のことをどう思っているか気になる。
Q3.自分のふるまいがその場にふさわしくないのではないかと気になる。
Q4.人によい印象を与えることにいつも気を使う。
Q6.自分の容姿が人の目にどのように映っているか気になることがよくある。
Q9.何かしようとするとき、人がどう思うか気になることがよくある。
Q10.いつも人の目を意識している。
Q12.自分の言ったことが人にどう受け取られるか気になることがよくある。
Q13.人に会うとき、どんなふうにふるまえば良いのか気になることがよくある。
Q14.人からどんな評価をされるか考えながら行動する。
Q16.少しでも人から良く見られたいと思うことが多い。
Q18.人に嫌われたりすることに我慢できない。
A私的自意識尺度:「他者から直接的には窺い知れない自己の内面に注意を向ける傾向の因子」をもつ7項目から成る尺度である。
(項目番号)
Q2.自分の気持ちの変化に敏感である。
Q5.自分の内面に目を向けることが多い。
Q7.自分がどんな人間かを自覚しようと努めている。
Q8.何か問題をかかえたときは、自分の心の動きにじっくりと目を向ける。
Q11.つねに自分自身を見つめる目を忘れないようにしている。
Q15.何か決心するときは、自分の気持ちをじっくり考えてみる。
Q17.自分の微妙な心の動きを敏感に感じとるたちである。
この場合も我々は質問紙作成段階において、公的自意識尺度と私的自意識尺度をランダムに配置し直している。回答形式は中と桜井と同様に、「よくあてはまる」(5点)から「全くあてはまらない」(1点)までの5件法で、自意識が強いほど高得点になるように得点化する形式を採用して実施された。
<フェイスシート>
Q1.
カウンセリングやソーシャル・ケースワークに関心、興味をお持ちですか。Q2.
これまでにカウンセリングやソーシャル・ケースワークについて学ばれた事がありますか。Q
3.ご家族や身近な人にカウンセリングやソーシャル・ケースワークなどの職業に携わっておられる方がいらっしゃいますか。Q4
.阪神・淡路大震災の前と後ではカウンセリングやソーシャル・ケースワークに対するイメージや考え方に変化はありましたか。Q
5.(4ではいと答えた方のみ)カウンセリングやソーシャル・ケースワークに対するイメージや考え方はどのように変化しましたか。Q6.
「心のケア」とは何だと思われますか。ご自由にお書き下さい。以上の質問についてQ
1からQ4までは1.はい 2.いいえQ5は、1.良くなった 2.悪くなった の二択式。 Q6は、自由記述式。最後に学部、学年、性別を記入してもらった。