競技成績とパーソナリティ

 

スポーツの競技成績がパーソナリティにどのように影響するか、という問題はスポーツ

適性と言う分野で研究が進められている。スポーツ適性の内容として、藤田(1966)

は、形態的適性・運動適性・性格的適性・知覚的適性に分けている。形態的適性と運動適

性は身体的適性、性格的適性と知覚的適性は精神的適性である。このうち知覚的適性は技

術に関係するものでものを見たり聞いたりした事柄を感覚器官を通して弁別し、外界を認

知する精神機能で、性格的適性は人間の全体的・力動的な行動傾向を表し、いずれも素質

と深い関わりを持っている。このうち知覚的適性は身体生理的要素も含まれているので、

ここでは主に性格的適性を中心に精神的適性をみることにする。

 

スポーツマンの一般的性格特性として一般的に、外向的で明るく、情緒が安定していて、

細かいことにあまりこだわらず、積極的で、活動的だとされている。そこで花田(196

8)らは、Y-G性格検査を用いて大学運動部の選手男女と一般学生男女の性格特性を比

べた。すると、男子の場合スポーツマンは非スポーツマンである一般学生と比較して、劣

等感が少なく、のんきで活動的であり、支配性が強く、社会的外向でやや衝動的な面のあ

るパーソナリティ特性を持つものが多い。一方女子では、抑うつ性が少なく、劣等感を持

たず、神経質でなく、のんきで活動的で支配性や攻撃性が強く、社会的接触を好む傾向を

示すが、あまり思索的ではないというパーソナリティ特性を持つものが多い。女子の場合

特に、選手と一般学生のパーソナリティの違いが男子よりも著しかった。それはスポーツ

をすることで、一般的に言うスポーツマンらしい男性的なパーソナリティ特性が現れたの

ではなかろうか。このデータのみでスポーツがパーソナリティ形成へ影響を与えるとの断

定はできない。しかし全体的に見てスポーツをする人は、情緒が安定し、社会的適応傾向

があり、外向の傾向を示す事がわかった。

 

また他にパーソナリティの変容を分析する方法として、スポーツ経験者だけを対象にして、

その期間の長短によって比較したものもある。野口(1957)らは、大学運動部員を対

象にして、経験年数9から10年の部員は1から2年の者に比べて、抑うつ性・劣等感・

神経質傾向が少なく、活動性・攻撃性が大きく、社会的外向であることを報告している。

丹羽(1966)もまた、大学運動部員を対象に縦断的に研究した。そして運動部経験年

数と関係のある性格特性として、男子の攻撃性・活動性・思考的外向性の増大、女子の神

経症傾向の現象が見られたことを報告した。しかし他の研究では、スポーツ経験が長いほ

どパーソナリティをプラスの方向に導くとの結果と、それとは逆に長いほど情緒不安定に

なるとの結果も出ている。また同じ被験者が時間の経過と共にどうなるかを調べる研究で

も、目立った変化はないと言う結果と何らかの変化が認められるという両方の結果が出て

いる。すなわち、スポーツはどのように経験されたかによって、パーソナリティの変容に

とってプラスにもマイナスにもなり得ると思われる。

それではどのようなパーソナリティが競技成績に影響を与えるのか。競技成績を規定する

要因を大別すると、次の通りである。

  競技成績=スポーツ技術×体力×心理的能力(精神力)  (徳永、1985)

ここではスポーツの競争・協同場面でどのようなパーソナリティ特性を持つことが望まし

いか、考えたい。すでに述べたようにパーソナリティテストにより、スポーツマンが持つ

性格特性は分かった。しかしこれが競技成績を規定する特性とするには、疑問が残る。

スポーツ選手の心理適性として、松田(1980)は、

a.スポーツに対する興味。b.目標達成に対して精神を集中し、持続することができる

資質。そのために障害や困難を克服し、自己訓練ができる。c.共通の目標実現のために

役割を分担し、責任を果たすことができる協同性。d.積極的に精神的な緊張を高め、強

い意志を発揮して競技することができる資質。e.危機的場面や選択場面で、状況を的確

に判断し、すばやく行動することができる。f.危機的な場面や緊張場面において情動を

コントロールし、精神の安定を保つことができる。g.自主的に行動し、障害や困難に遭

遇したり、新しい場面に直面したときも、観点を変えたり、創意・工夫したりして適応す

ることができることをあげ、これらの適性の基礎にある競技スポーツにおける勝者と敗者

を区別する最も重要な条件の一つが、「選手が自ら進んで、自分自身を苦しめる程の強い

達成動機(意欲)を持っているかどうか」であると述べている。さらに松田(1966)

は、「スポーツは心身に大きな負担をかけるものであるからこそ、楽観的・楽天的である

ことが望ましい」としている。たとえ困難に遭っても、常に可能性を信じて努力を続けね

ばならない。実力の限界を感じ「もうだめだ。」と思ったら、その意識が行動を支配し、

本当に意欲を失ってしまうのだ。

 

スポーツにおいて勝つという目標達成の為には、心理的圧力からうまく解放されることも

必要である。フランシス・J・リャン(1976)の研究によれば、優れた選手とそうで

ない選手との間には、以下のような差が認められるとのことである。優れた選手は、

  1. 熱意があり、成績を非常に気にする。
  2. いつも特定のライバルを意識している。
  3. 負けた時生真面目で、怒りは表に出さない。
  4. 闘志をひるませることはめったにない。
  5. これに対し、そうでない選手の場合、

  6. 勝つことへの熱意が不足している。
  7. ライバルに対して、友好的な態度を取る。
  8. 負けた時に哲学的に自己弁護する。
  9. 予想外にハプニングでよい結果が出た時、有頂天になりその後にパニックに陥る。
  10. 時々闘志をひるませる。    とのことである。