精神力・根性について

 

スポーツ競技における勝敗は、必ずしも両者の技能や体力のみによって決定するもので

はない。技術的側面・体力的側面・精神的側面の3要素のバランスがとれていることが不

可欠である。特に精神的側面としてのスポーツ選手のパーソナリティについては先に述べ

たが、よい競技成績をあげる為の精神的要素として重要な精神力・根性について、もっと

考えていきたい。

 

精神力とはスポーツにおいてのみならず、人間のあらゆる行動を支える重要な因子として

考えられてきた。精神力には「頑張り」「闘志」「ねばり」という意味があると捉えられて

いるが、体力という言葉と同様に複雑な内容をもっている。行動を起こしたり、統制した

りする心の働きは「意志」と呼ばれているものに相当する。したがって精神力の具体的な

表われが意志であるといってもいいだろう。すなわち目的の達成に向かって心身の働きを

統合したり、それを阻害するものを統制したりする心の働きを総合したものが精神力だと

いえる。

 

ところで、精神力と体力とはどのような関係にあるのだろうか。我々が恐れ・不安・不快

感など外部からの情緒的圧力を受けると、自律神経系や内分泌系を介して色々な身体的障

害を起こす。松田(1967)によると、情緒は身体的機能と密接に関連し、行動を促進

し、体力の発揮に大きな役割を果たす。例えば試合において激しい闘志をもち、適度に情

緒的な興奮を起こすと、交感神経が刺激され、それによって副腎髄質からアドレナリンが

分泌される。血圧が高く脈拍が多く呼吸が深くなり、筋肉又は肝臓に蓄積されたエネルギ

ーが消費される。そのことによって活動が活発になり大きな力を発揮することができる。

また火事場の馬鹿力とか緊急事態に直面したときに見られる超人的な力の発揮も、突然の

強い刺激によって生じた情緒的興奮により、大脳皮質からの抑制作用がなくなったために

発揮されたものだと考えられる。

 

さらに精神を集中することが、力の発揮に影響を与えることは日常生活でよく経験する。

実行しようとすることに精神を集中することは、他の不必要な心身の働きを抑制しエネル

ギーの消耗を避け、エネルギーを実行しようとする行動に指向させる。準備の構えをする

ことで次の行動を有効に実行できる。ところが持久的な行動や運動になってくると、精神

集中を長く続けねばならない。運動の持続はエネルギーを消耗するだけでなく、苦痛を伴

ったり、今やっていることをやめたいという感情を生じさせる。運動を続けようとする力

と逃れようとする力が戦い、運動を続けることが勝つかどうかは精神力によるところが大

きい。このとき、運動を継続させる原動力には運動に対する「興味」なども関与するが、

「目標実現への意欲・固執性」が大きいのではなかろうか。この目標達成への固執性は運

動遂行に対する価値の認識や責任感、使命感などに支えられたもので、性格特性によって

も影響される。そしてこの目標実現への固執性はいわゆる「根性」にも相当するものであ

る。

 

「根性」とはあることに徹し、態度や行動に一貫性のあることを意味している。スポーツ

選手に求められる根性は、松田(1966)によると、「高い目標を持ち、その目標の達

成の為に心身の働きを統合し、しかもそれを持続する強い意志である」。試合の時だけ一

時的に強い闘志を発揮するのでなく、日常生活・練習・試合を通して、態度や行動が自己

の目標のもとに統一され、一貫性のあるものであることが重要だ。目標達成を妨げるよう

な自己の欲望に打ち勝ち、困難や苦痛を克服して目標達成の為に必要なことをやり抜く実

践的な態度を持った選手が根性のある選手である。このような精神力・根性を持った選手

こそ技術・体力も伸ばし、成績を伸ばしていくのだ。