セリグマンの理論について

 

 楽観主義・悲観主義という考え方とスポーツにおける戦績とを結びつけるにいたったセリグマン氏の説について、彼の著書「オプティミストはなぜ成功するか」(1991)に沿って説明したい。

 

 人が何らかの出来事に遭遇した時に楽観的に解釈するか、それとも悲観的に解釈するのかという2通りの方法がある。そのいずれを選択するかは、彼または彼女の母親の説明スタイル−普段自分に説明する時の方法−によるところが大きい。個人の説明スタイルは子供のころに発達して8歳までにほぼ完成され、意識的に変えようと努力しない限りこの習慣は一生続く。楽観度をはかる方法としては、二者択一の質問紙に答えていく形式のASQ(特性診断テスト)や、会話の内容を細かくチェックしていく形式のCAVE(説明スタイルの逐語的内容分析)などがある。CAVEは、ASQに答えてもらうことが困難な場合や、過去の人物などにも適応が可能であるという点で画期的である。

 

 オプティミストとペシミストとの違いは、永続性・普遍性・個人度という3つの尺度にあらわれる。オプティミストは敗北を一時的でこの場合のみであると限定し、他人やその場の状況のせいでこの挫折がもたらされたと考える。これに対してペシミストは、敗北はこれから先もいろいろな分野で続き、この挫折は自分がいたらなかったために起きたと考える。この両者の考え方習慣の違いが、学校・職場・健康状態・スポーツ・免疫状態・選挙・試験など様々な場面で、大きな影響を及ぼすことがわかっている。つまり、オプティミストのほうが、学校や職場・試合・選挙などで実力を存分に発揮して活躍し、健康状態も良く長生きできる。これに対して、ペシミストは無力感にとらわれていてうつ病にかかりやすく、実力を発揮することができず、健康状態も悪いという顕著な差があらわれるのである。スポーツの場面での楽観度とは、実力が同じ程度の選手ならば楽観度の高い選手の方が実際の試合で成功する確率は高いということである。よって、コーチは選手の楽観度を把握した上で適切な場面で選手を登用することが可能になる。

 

 さて、悲観の中心になっているものは無力感であり、無力感に陥るとうつ病にかかりやすくなることは先の段落でも述べた。うつ病とは否定的な考え方によって起きるものであり、失敗・挫折・敗北・無力などへの考え方の習慣を変えれば、治すことが可能な病気である。よって、ASQやCAVEなどで自分がペシミストであるという結果が出た場合、説明スタイルを意識的に変えれば、うつ病からも逃れることができる。この時に必要になってくるのがアルバート・エリスが考案したABC方式である。困った状況(Adversity)について自分の説明スタイルに従った思い込み(Belief)をし、それが即結果(Consequence)につながる。この悪循環を断ちきるべく、普段は意識することのない自分の心の中での会話に注目して,ABCの3要素を書き出す日記をつけることが効果的である。これによって、自分が悲観的なものの見方をしていることを認識し、反論するかもしくは気持ちを他のことにそらすというどちらかの方法で悲観から逃れることができる。中でも特に有効なのは反論である。ややもすれば悲観に傾きがちな自分の考えに反論(Disputation)し、元気づける(Energization)という練習を積むことで、悲観的な説明スタイルからの脱却ができる。これをABCDEモデルという。

 

 しかしながら、悲観的なものの考え方がすべて悪いわけではない。というのも、オプティミストは、周りの状況を自分の都合の良いようにゆがめて解釈してしまうこともあるのに対して、ペシミストは現実をありのままに正しく見ることができるという長所を持っているからである。よって、企業やスポーツの集団などが成功するためには、トップに楽観的なものの見方と悲観的なものの見方の両方のバランスがうまく取れる人が必要であるといえる。