結果・考察
サンプル処理説明
・サンプルの精選
合計397人のサンプルを収集した。さらに、その中から全質問に答えていない場合、明らかに規則性のある回答をしている場合を削除した。最終的に359人のサンプルについて分析を行うこととなった。
・サンプルの分類
サンプルを収集することができた各々のクラブについて、さらに個人競技・団体競技の二つに分けるという作業を行った。二つに分けた必要性としては、個人競技では一人一人に対して明確な成績が出るのに対し、団体競技ではチームに対して戦績が出るということにある。そのため、個人競技においては個々に対して分析を行うことができる。しかし団体競技においてはそのクラブのメンバーを個々に分析できないので、全体を一つとして分析した。そして団体競技として分類したクラブ間で比較するという方法をとった。下記に個人・団体の二つに分類したクラブとサンプル収集人数を示した。
個人競技―洋弓・空手・テニス・卓球・山岳・剣道・バドミントン・馬術・重量挙げ・スキー・ソフトテニス・
射撃・ワンダーフォーゲル・柔道・水上競技・相撲・スケート・器械体操・陸上
団体競技―ボート・ラグビー・ハンドボール・硬式野球・サッカー・バスケットボール・ヨット・アメリカンフットボール・
アイスホッケー
個人競技・結果
・戦績処理の説明
戦績についての説明をする。アンケートに回答してもらうと同時に、全選手に戦績報告書についても記入を依頼した。それらの収集した戦績報告書により戦績を勝敗・順位・敗退・スコアの4つに分類した。
【個人競技戦績説明・該当クラブ】
戦 績 |
説 明 |
該 当 ク ラ ブ 名 |
勝率 |
何勝何敗かが出る競技については全試合における平均勝率を出した。 |
空手・卓球・バドミントン・ソフトテニス・ワンダーフォーゲル・柔道 |
順位 |
その試合での順位が出ているものに対しては順位を数字で表した。 |
洋弓・テニス・剣道・馬術・スキー・ソフトテニス・水上競技・相撲・スケート・器械体操・陸上競技 |
敗退 |
順位はでていないが、何回戦で敗退したかが記入されているものについてはその何回戦かを数字で表した。 |
テニス・卓球・剣道・バドミントン・ソフトテニス・水上競技・相撲 |
スコア |
点数で結果が出ているものについては、その点数をそのまま数字で表した。 |
洋弓・射撃 |
・満足度について
戦績報告書に満足度という欄を設けた。これは個人がその試合についてどれだけ満足のいくプレーができたかを調べるためのものである。この満足度により、その試合に対する各々の自分自身のプレーへの自己評価をみるためである。つまり客観的にみると結果は良いと見えるものでも、その個人のレベルやその試合のレベルによっては自己評価が低いものになるということである。例えば同じ三位という結果においても、いつも優勝を勝ち取る選手にとっては不本意な結果であるということも考えられる。またさらに、その試合が全国大会ではなく地区大会など大会の規模やレベルが変わっても、その結果や結果に対する自己評価は変わってくるということである。この満足度を考慮することにより、異なる試合における均一化をはかった。さらに、満足度と戦績と楽観度の3項目における相関も調べる。
・分析方法
個人競技における分析の方法を説明する。個人競技においては各々に対して戦績が出ているので、個人の楽観度を取り上げて戦績との相関を調べることにした。まず、体育会スポーツにおける全体の楽観度の中央値(−1)より高いもの=h、低いもの=lとグループ分けを行った。そして実際にH・Lのグループの戦績と楽観度を箱ひげ図で表した。このときの戦績は勝率(RITU)・順位(ALLRANK)・敗退(ALLHAI)・満足度(ALLSATIS)の4つの基準により比較した。さらに、4つの項目における正規性について検証する。歪度はSkewnessで、尖度はKuritosisで表されている。これの絶対値は外れ値や異常値が含まれている場合に大きな値をとり、またともに絶対値が10を超える場合は分布の正規性が認証されない。この調査の場合、全項目において絶対値が10以下の値であるため正規性が検証された。下記に戦績(勝率・敗退・順位)と満足度、楽観度の分布を箱ひげ図で示した。
個人競技・考察
個人競技において、今回の調査から楽観度が高いグループ(h)が戦績も良いということがほぼいえる。勝率、敗退、満足度においては楽観度が平均より高いグループがその戦績も良いというこが箱ひげ図によって表されている。残念ながら、順位については仮説が成立しなかった。また勝率と楽観度と満足度の三次元の分布を見ても分かるように、勝率が高いグループが低いグループよりも楽観度も満足度も高くなっている。このように楽観度が高いものは、戦績においても結果を残し、自己評価も高く、自信をもつことにより、さらに良い結果を残していくという循環が考えられる。
団体競技・結果
・戦績処理の説明
団体競技における戦績の説明をする。団体競技も同じようにアンケートと共に戦績報告書に記入を依頼した。しかし団体競技では一つのクラブを一つのまとまりとして考え比較したいので、戦績はクラブで統一した。個人競技と同じように、勝率・順位・敗退の3項目に加え、さらにベストという項目を付け足した。このベストとは明確は順位は出ないが、例えばベスト4などの結果を残している場合に記入してもらったものである。
【団体競技戦績該当クラブ】
戦績 |
該 当 ク ラ ブ |
勝率 |
ラグビー・硬式野球・サッカー・バスケット・アメリカンフットボール・アイスホッケー |
順位 |
ボート・ヨット・サッカー・バスケット・アメリカンフットボール・硬式野球・アイスホッケー |
ベスト |
ボート・バスケットボール・アイスホッケー |
敗退 |
アイスホッケー |
*ハンドボールについてはアンケート記入者が4人と少なかったため、団体としての比較が出来ないためサンプルから削除した。
・満足度について
団体競技における満足度について説明する。団体においては、満足度によってその試合における個人の貢献度を調べる。試合は勝っても個人が活躍したのかなどを調べることができる。
・分析方法
団体競技における分析の方法を説明する。各クラブの楽観度を箱ひげ図で示し、それぞれの平均値を出す。その平均値を各クラブの楽観度として、戦績(順位・勝率)との相関を調べる。相関を調べるために戦績と楽観度を散布図で表し、さらに相関係数を求めた。
クラブ名 |
人数 |
楽観度 |
勝率 |
順位 |
ベスト |
|||
平均値 |
順位 |
最小値 |
最大値 |
|||||
ボート |
18 |
-1.722 |
8 |
-6 |
3 |
. |
5 |
16 |
ラグビー |
21 |
-0.810 |
3 |
-6 |
8 |
0.55556 |
. |
. |
硬式野球 |
27 |
-1.296 |
6 |
-7 |
4 |
0.66667 |
5 |
. |
サッカー |
41 |
-1.146 |
5 |
-6 |
6 |
0.85714 |
1 |
. |
バスケット |
11 |
0.000 |
1 |
-4 |
5 |
0.72727 |
1 |
. |
ヨット |
16 |
-0.875 |
4 |
-7 |
6 |
. |
7 |
. |
アメリカンフットボール |
72 |
-0.750 |
2 |
-6 |
10 |
0.71429 |
3 |
. |
アイスホッケー |
8 |
-1.375 |
7 |
-7 |
2 |
0 |
8 |
2 |
順位 |
勝率 |
|
楽観度 |
-0.53609 |
0.42046 |
−0.2〜0.2 →殆ど相関がない
0.2〜0.4(−0.2〜−0.4)→やや相関がある
0.4〜0.7(−0.4〜−0.7)→かなり相関がある
0.7〜1.0(−0.7〜−1.0)→強い相関がある
団体競技・考察
上記の結果により、団体競技においても楽観度が高いクラブが良い戦績を残していることが分かった。楽観度と順位の相関係数は−0.536となり、楽観度の数値が大きくなれば順位の数値が小さくなるという負の相関が見られる。また楽観度と勝率の相関係数は0.420となり、楽観度の数値が大きくなれば勝率の数値も大きくなるという正の相関が見られる。つまり楽観度の平均値が高いクラブは戦績も良いという仮説が成立する。
このように今回の調査から、個人競技と団体競技の両者において仮説である楽観度が高い選手がより高い成績を残すということいえる。
今後の課題
この調査を通して今後の課題を述べたい。まず、一番残念でならなかったのが戦績表現の統一が出来なかったことである。そのため、クラブにおける戦績表現の違いや、試合やクラブによって異なるレベル格差を充分に補うことができなかった。また、戦績を統一するため、試合に対する満足度という項目にも回答してもらったが、この満足度も分析において充分に活用できなかった。この満足度の充実と、異なるクラブ間においても横断可能な戦績の充分な尺度を作ることを望む。
さらにこれからの追跡調査として、クラブの成長や楽観度を高める指導をしたのちの戦績変化を調べると、これからのスポーツ指導に大きく役立つものになると思われる。また団体競技のクラブ内で、楽観的な選手と悲観的な選手の分布のバランスが戦績にいかなる影響を及ぼすのかを調べるのも興味深い。
最後に、本調査のためにアンケートに協力してくださった方々、戦績収集において協力して下さった方々に感謝を申し上げたい。