序論
最近、テレビのドラマを見れば必ずといっていいほど、心理学に関係のある番組に当たる。主人公がカウンセラーであったり、また逆に主人公が、何らかの心の障害があり、それを取り除くために精神科に通うといったものである。それだけ多くの国民が関心を示している証拠である。またニュースを見ていると連日、心理学者がコメントを求められているのをよく見かける。去年の日本だけではなく世界の重大ニュースであった、和歌山カレー事件でもたくさんの精神学者、心理学者が討論していたことは記憶に新しい。特に神戸は、阪神、淡路大震災や須磨で起きた中学生による幼児殺傷事件は、人々の心の中に大きな傷をつくった。とりわけ母親は子育てのあり方を考えさせられた。子供たちがなにを考え、なにを求めているか真剣に考えさせられる事件であった。
その中で神戸市社会福祉協議会、市民福祉大学の主催による、ヒューマンサービスコース中級コースが開催された。ここでは自分自身を客観的に見つけだす「自己覚知」を目標とする初級コースを終えた講習生が、援助者にふさわしいコミュニケーション能力を身につけ、よりよい活動につなげることを目標としている。さらに、他者への共感を育んでいくこと、自分の利益ではなく、よりよい援助をする行為を通じて、よりよい共感をするための技術的なものを身につけていくことをこのコースは目標としている。今、どんなことが必要なのか、感じるか、という認知的、情緒的活動をともにし、“人を通じて共感を学ぶ”ことが主題とされている。
中級コースの学習形態として、相談場面の映像を題材に、テレビモニターやビデオカメラを組み合わせた機器(コミュニケーションラボ)を使用する。ビデオを通じて自分自身の会話の傾向、姿勢、身振りなどを客観的に見ることにより学んでいく。その際にマイクロカウンセリング技法に乗っ取って授業を進めてきた。昨年石岡、富岡が、コミュニケーションラボがコミュニケーション技法の修得においてどれだけ効果があるか、ラボを使う初回と最終回でビデオを比較、測定してきた。我々は本研究において、さらにより正確な数値を求めるために、初回、最終回がどちらであるかという情報を与えられることなく、測定することを目的とする。(情報を与えられるとデータに歪みが生じるおそれのあるため)なお、測定する際の尺度は、昨年と同じく共感に関係のある治療関係スケールを使用した。
この研究で石原、富岡の研究がより実証的になったとともに、援助を目的とした治療関係が、援助者の持つ治療的要因を分析使用とする手助けになれば、と思う。