U.大学における社会福祉教育の現状
<社会福祉教育について>
社会福祉教育は戦後、制度・政策論的視点から制度・政策論と方法論を二分化して捉える視点へと変化しつつあり、その中でカリキュラムは過密になりがちで無理な状況を強いられてきた。この整備も不十分にしたまま、さらに社会福祉士の未整備な試験科目をカリキュラムに加えている今日において、社会福祉教育は学生にとっても教員にとっても、学問の場から資格取得の場に変更せざるをえない状況にある(大島,1992)。
社会福祉士は、さまざまな社会福祉の実践家に共通する基礎教育の必要性からできたものであり、福祉全般に対応できる知識と技術をもつ基礎的要件としてのgenericな資格である(大橋,1990)。そして、大学における社会福祉教育はその視点と同じく、福祉のあり方をを総合的・体系的にとらえ、人を全体的に見ることができるなど、基礎的なものの見方や視野の広い理論、実務的な素養などをもつ専門家の養成をめざしている(岡本,1978)。社会福祉の現場に従事する者を養成することは、社会福祉そのものの発展を促すことに他ならない。専門的な知識・技術・価値観に根差した実践家を育てることは社会福祉教育の重要な一つの目標なのである(米本・安井,1989)。しかし、実際には教養型が多く技術教育は不足している(前納,1990)、専門職養成とはなっていないなどと(津崎,1989)、実践家の養成が常に課題とされてきた。
一方、現場においては今でも専門教育を受けた者が職員になっているとは限らず、専門教育を受けた学生を受けれられる能力がなかったり、福祉を軽視する風潮も根強くあり、給与や待遇が充実しているとは必ずしもいえない。そのために学生が結果的に社会福祉関係の職場に就職することを拒み、いわゆる3割専門職養成に甘んじる結果をも生み出している。また、現場の人手不足は深刻化していると指摘されながら、社会福祉の専門教育を受けた学生を採用しない職場もある。つまり、現在の社会福祉教育は多くの卒業生を送りながらも、実際専門職の職場としては魅力が少なく、しかし就職を希望したとしても学生は専門職として就職できない、という不自然な状況にある。
また、社会福祉そのものの機能が普遍化・多様化し始めたために、社会福祉教育の意味は多彩となり、ますます焦点が定まらなくなってきた。そのような中、カリキュラムの統一性や内容の充実が求められているが、今なお社会福祉系大学における専門家養成が何を目的としているのかという問題が定式化しておらず、かつ現場に残存する専門職を採用しない風潮を考えると、大学における社会福祉教育は、専門家養成の意義、さらに言えば大学の専門教育の存在すら問われかねない極めて厳しい局面にきている(大島,1992)。
<社会福祉実習について>
社会福祉実習は、大学のカリキュラムにある以上、社会福祉教育の目標に根差し行わなければならず、その中心的目標である専門家の養成には不可欠のものである(山口,1986)。社会福祉士においても必須科目とされているが、実習が不可欠とされる所以は、社会福祉の問題がすべて人間に関わるものであり、人間への援助実践そのものとして社会福祉をとらえ、サービスや政策を必要としている人間から主体的に問い、実現するという社会福祉の臨床的視点を欠くことができないからである(足立,1992)。
しかし、社会福祉実習に対する認識は統一されていないのが現状である。実習が資格のための科目となったことによって学生の動機は多様化した。そのため、個々の学生によって実習の受けとめ方が異なるという問題は現実として避けられられず、そのような中、あらためて実習の目的や意義を明確にする必要性は極めて高い(米本・安井,1989)。
また、社会福祉に対する関心や資格の影響で実習生が増加していることは、厳しい日常に追われる現場と、多種多様な現場と学生との両方に対応しなければなならい学校に混乱をきたしている。竹内(1998)は、現場における様々な実習生の増加、そのような実習生に対応しなければならないスーパーバイザーの負担、休暇中に偏りがちな実習期間を考えると、大学側はこのような現場の状況を緩和するために、実習の受け入れに関しては現場に任せているとしている。一方で、受け入れ側である現場には、大学の実習担当者が受け入れのためにしか現場に訪れないことを問題にし、実習指導に対する不安から日常レベルでの交流を求める声もある(加藤,1989)。実習教育において、実習指導体制の整備と大学と実習先との関係の強化は常に課題とされてきたものの(山口,1986)、実習生の増加からその取り組みは危機迫るものとなっている。
このような実習状況の中、病院実習は社会福祉士の資格制定により、さらに複雑な局面にいる。
社会福祉士に医療ソーシャルワーカー(以下MSW)は含まれなかったため、社会福祉士の実習機関として保健・医療機関は認められていない。したがって、現在、社会福祉実習には資格受験の必須科目である現場実習と、病院実習に代表される受験には必要ないが個人の希望で行う実習の二つがある。これは、実習生にとってかなり意味が異なってくる。将来MSWになりたいと希望する学生が、社会福祉士の受験資格を得ようとすれば、どちらの実習も行かなくてはならず、実習履修における負担も大きくなり、どちらかの実習をあきらめるという二者択一を余儀なくさせることにもなりかねない(大野, 1989)。その結果、資格取得のために、病院実習を希望する学生が減少することを危惧する声もある(吉田,1989)。
また、病院実習においては、医学的な専門的知識が不可欠であることやケースを担当することによるリスクの高さ、医療現場そのものの厳しさなどから、実習生の指導に困難を伴うことが多い(大谷,1989)。MSWの実績は我が国のソーシャルワーク実践を代表するものであるにも関わらず(栗田,1992)、その後継者養成の第一段階であるはずの実習は、実習期間・内容・目的・目標・指導方法など、多くの問題を山積したまま今日に至っている。