<<雑誌論文カード>> 著者名:手島 陸久 論文名:「MSW養成における大学の課題」 雑誌名:『医療と福祉』 巻:No.48 号:Vol.20−No.2 ページ:16〜22    年:1986 1985年度日本医療社会事業学会(岩手)と1996年度長野学会で、論議されたMSW養成 についての報告と、筆者の意見。 <1985年岩手学会での論議> 1) 病院SW実習の特徴 @ 医学的な専門知識、医学・医療の視点・考え方・しくみを知っていること。 A 他の専門職との関わりが多く、チームワークをとれる能力や協調性が必要。 B 患者の本当の悩みを聞ける能力が他の領域よりも要求される。 C 実習生にケースを担当させるのには、リスクが大きい。 2) 実習の問題点(16) (受け入れ側から) @ 大学・学生の実習目的が不明確。 A 実践方法論、SW・CWの基礎学力・理解が不十分。 B 期間が短く、見学程度のことで終わってしまう。(理論の必要性への動議づけ、姿 勢など漠然としたものを学ぶぐらい) C そのため、リスクをおかしてケースを担当させられず、患者との関係を深めること や援助技術の習得まで責任がとれない。もちろん、コーディネーターやコンサルテ ーションの役割は不可能。何も知りませんでは、他の専門職とチームでやっていけ ない。こちらの信用にもかかわる。 D 大学からの連絡不足。(依頼のみのかかわり) E 受け入れ側がスーパービジョンの訓練を受けておらず、実習プログラム・指導が経 験の域を脱しない。 F 指導時間の不足、長期実習受け入れの困難。 G 厳しい就職状況…MSWにならない、なれない。不明確。 (大学側から) @ 大学側と共に実習教育を担ってもらえるスーパーバイザーを捜すことが困難。 A 大学側とスーパーバイザーとの連絡・情報交換に困難が多い。 B 病院により業務内容に差異が大きく、実習後のフォローに注意が必要なときがある。 T実習期間について 短期可…学生がMSWへ動機をもち、現場にふれて自身で考える機会である。 長期可…実習生が悩みそこから成長し、また技術の取得するためのもの。 ・ 現場を知り、ワーカーのクライエントに対する姿勢を理解する第1段階と、それにつ いて学んだ後、技術や業務を中心にした第2段階を、区別し割り切ることが必要。 U実習の動機・目的と事前実習について (受け入れ側から) 具体的にテーマを求めるよりも、MSWになりたいという意欲を大切にすべき。 白紙で現実を見てから考えてほしい。 実習中に変化することを重視し、動機は問わない。 安易に学んだ知識・理論にあてはめるのではなく、問題を持たずに飛び込み、学生自身 で学ぶ中で、患者の痛みなどを経験することが必要。 (大学側から) ワーカー自身にある困難も考慮するべき。 クライエントへの責任を考えるのならば、SWになる意志があることが条件。 大学でもCW・SW教育を強化するべき。 SWがいない病院でも、実習すればSWの必要性を理解できる契機となる。 @病院にも福祉教育に責任がある。 大学と病院の役割についてお互いに確認する努力が必要。 大学で本格的なSW養成は困難なのが現実だが、患者・家族の実態から、それに応え られるSW養成の場をどのようにつくるのか、検討するべき。 <1986年長野学会での論議> 1:大学での教育・実習は、MSWとしての基礎であり重要だが、MSWの専門職養成は、 大学のみならず、卒後研修なども含めて検討するべき課題である。 2:議論内容 ・MSWとして成長するために、基礎・核となる知識・技術・理論について ・それらを習得するために、病院実習の目標について ・ そのための病院実習のあり方、関連する事前・事後教育の課題について 1) 高木邦明氏(日本社会事業大学) 実習教育の目標(17) ・ 対象者のニードの理解 ・ 施設機関の機能の理解 ・ 専門的援助技術・援助関係の学習 ・ 今後の進路・学習にむけての自己洞察・理解 @学生の安易な選択の疑問もあるが、学生全体のフォローは困難 2) 上原千寿子氏(日本福祉大学) 実習のありかたについて、現場との共同研究の背景について ・ 今日の豊かな社会においては、患者問題がみえにくい。 ・ 学生が福祉への動機づけが低い。生活体験が狭い。自主的な実習・研究活動が減少。 実習体験を教育の中に生かし、教育の質をあげることも必要。 3) 橘高通泰氏(兵庫医科大学病院) ・ MSWの成長には、理論と知識の習得と実践を並行し、さらにまた学ぶという繰り返しが 必要。社会性と個別性をバランスよくとらえらえることも大事。 ・受け身な講義中心の教育では、実習期間をただ長くしても不十分である。 4) 伊藤淑子(東京都立大久保病院) ・ SWには実践から体で覚えることが大切。 ・ 学生、ワーカーとしての視点・考え方、クライエントへの姿勢、主な保健・福祉機関につ いて概要を理解していてほしい。 ・ 実習では、援助の難しさ、患者さんの現状やサービスの問題点などを実感として学ぶこと ができる。Wにとっても患者さんにとっても意味のあるようにできること。 5) 真野元四郎氏(日本協会教育部) ・ MSWには知識・技術・人間性のバランスが大切。 ・ 現場SWも、実践と理論を検証することが大事。 6) その他 ・ 学生の目的と病院を紹介を協会で調整できないか。 ・ 大学では、広い視野にたてる人間教育・自分で考えられる基礎学力の習得が大事。 ・ 「卒後に一人前」を求めること自体が問題。 ・ 卒後現任教育に大学も協力してほしい。 <MSW養成における大学の課題> 福祉系大学教育の目的 1)教養としての社会福祉、2)社会福祉学の研究と教授、3)専門ワーカーの養成 @医療福祉では、専門教育の要請が高い。 MSW養成上の課題 必要な能力は「患者・家族の医療福祉ニーズを正確に把握・予測し、医療機関内の他の医療 福祉従事者、市民らと協力し、チームをくんで必要な援助を提供できる能力」(20) 1) 医療福祉論の設置と専任教育化 2) 保健医療関連科目の教育の充実 3) 実習教育の強化、充実…MSW自体をあまり知らないため、学生の動機は、表面的で抽象 的。 4) 福祉実践方法科目・SW科目の教育方法の改善・拡充 5) MSWの成長過程の分析・研究に立った教育プログラムの開発 6) 卒後の現任教育への協力と共同研究の推進