著者名:岡本 民夫
論文名:「社会福祉教育の本質」
雑誌名:『社会福祉研究』
巻:第22号
ページ:51~56
年:1978

<1 はじめに>
最近の社会福祉需要の拡大化と多様化により、福祉サービスの多角化と高度化が社会的に求め
られるようになった。そして、実質的に福祉関係の諸制度や施設などを担い、利用者に使って
もらえるよう機能する福祉関係職員の確保・養成・訓練または教育は、具体的に施策がはじま
っていないのが現状だ。福祉の中核である人的資源対策としての待遇問題や、高度な資質をも
つ職員を確保するための広義な意味での「教育投資」は、まだ不十分なのである。
しかし、急増する人で不足を解決するために、その場しのぎで人的資源を確保することは、結
局はその施設・機関の機能に悪影響を与え、福祉サービスの専門性を希薄にし内容も質的に低
下させる。よって、福祉のマンパワーの問題は、量的問題を解決する視点ではなく、資質の向
上という点から教育・養成・訓練について考えられなければならない。

@社会福祉教育のあり方
1:従来の社会福祉教育における教育・養成・訓練のありかた。
・ 福祉職員の研修や現任訓練の問題。
即戦力を望むあまり技術に偏り、基礎的なものの見方や体系的理論の学習が軽視されている。
・ 福祉系大学における教育・養成の問題。
アメリカをモデルにしているため、大学院もしくは大学から専門家を送り出すことが福祉サ
ービスの質的向上と専門性の確立につながると当然のこととして了解されている。しかし、
このような福祉教育は技術教育や実務教育を重視するもので、またアメリカのように大学院
でははく学部もしくは短期大学レベルでされてきたという「誤謬」もあり、結局、基礎のな
い技術が先走りし、実際は福祉の実務になじまない側面が目立ってきた。

2:今後の社会福祉のあり方から、どのような資質をもつ社会福祉職員を教育し養成するか。
・ すぐに役立つ知識や技術だけでなく、「福祉のあり方を総合的・体系的にとらえ人間をトー
タルにとらえうる」(52)、視野の広い理論と実務的素養を合わせもつ必要がある。

3:今後の社会福祉職員のあり方を実現するためのこれからの社会福祉教育のあり方。
・ 現任訓練や研修のあり方。
・ 福祉系大学の教育・訓練のあり方。
・ 一般国民への社会福祉教育のあり方。

本稿では、福祉系大学における社会福祉教育の実状と、これからのあり方について問題提起す
る。

<2 社会福祉系大学の実状>

<3 大学における教育と研究のあり方>
もともと、大学は知識や技術だけではなく、ものの考え方を学ばせ、大学を出た社会において
困難に出会ったときの克服の方法を身につける場である。つまり、大学においては自主学習能
力が養われなくてはならない。現場は即戦力を期待しているが、学問の方法や基礎的な素養を
身につけることの方が、結局は真に「間に合う人材」(54)になると考えられる。
これは、カリキュラムの問題だけではなく、カリキュラムを支える大学の研究のあり方も問わ
れていることになる。大学で「何を教育するか」は、実質、大学の研究のあり方が裏付けてい
るからだ。
福祉系大学は私学が圧倒的に多く、財政難から、人的、財政的、物理的研究条件は多くの大学
で極めて厳しい状況である。
・ 研究のための人的問題、文献、資料の体系的収集と整理。
・ 福祉領域での共同研究
・ 研究上の大学間の連携
@「誰でも、どこでも、いつでも」学べる「開かれた大学」(55)としてのあり方。
   大学内外の教授・研究者の相互乗り入れの活発化

<4 福祉系大学と福祉現場との連携>
社会福祉は、実践的で技術的な側面が強いが、だからこそ幅広い素養と福祉についての基礎的
なものの考え方をもつ人材が必要なのである。しかし、実際は「現場」から、即戦力が求めら
れている。
一方で、指導側も、理論や批判を自ら活かす「活性化」(55)の力量が不十分なことも多い。
現場と大学は元々、機能も役割も異なるものであり、緊張関係にあるともいえる。しかし、相
互の役割の相補性が重視されなければならず、そのためにも、現場の潜在的な能力を活性化さ
せ発展してもらうことが必要である。そのために大学では、中核的な人材を育て、現場と大学
との人材を交流させ、データーを研究しまた現場にフィードバックさせるぐらい、現場との相
互関係が必要である。

現任訓練では、働きながらも定期的に大学で授業を履修できるような「継続教育」(55)の
システム作りと、現場の職員に対する研究時間、経済的な保障、交代要員の確保などが必要。
実践内容を改めて、原理的に研究できるような機会も必要。
必要な社会福祉教育コース
① 最先端の学問成果にふれることができるコース
② 基礎的学習をするコース
③ 隣接諸科学の成果や知識を学ぶコース
@課題…長期有給制度、交替・補充職員制度、奨学金制度の確立や改革、専門教育機関の適切
な配置