2章 デイサービスの展開  高齢者に対するデイサービスは、近年急速に発展してきた。本章では、まず、その量的拡大という発展の側面と、デイサービスセンターの質的な変化という発展を概観する。その上で、サービス利用者である高齢者にとっての、デイサービスの意義を検討したい。 1.デイサービス発展の推移 ・デイサービスの量的発展   デイサービスというのは、もっとも一般的にいえば、日中ある一定の場所に通所してくる虚弱な高齢者や障害者に対して提供される複数のサービスの総称である。「我が国の高齢者に対するデイサービス事業は、1977年に東京都のケアセンター運営費補助によって制度化され、都下の2ヶ所のケアセンターで始まった。その後、79年には「デイサービス事業実施要綱」にもとづく国庫補助事業として全国的に事業が開始されることになる。国庫補助によるデイサービス事業実施個所は、79年度の20からスタートした。85年度までは全国で100ヶ所に満たないが、86年度は対前年度伸び率が119%となり、数のうえでは210ヶ所となった。86年4月に、厚生省内に設置されていた高齢者対策企画推進本部が報告書を出し、デイサービスセンター(以下、センターと略記)を当面3000ヶ所、将来的には1万ヶ所設置する必要性を明記した。そして、運営費の負担割合も国が3分の1から2分の1とし、市町村は3分の1から4分の1の負担に軽減した。さらに、それまでの特別養護老人ホーム(以下、特養と略記)や養護老人ホームに付設ないし併設した施設だけでなく、単独のセンターおよび適切な施設に併設したセンターを国庫補助の対象とすることを認めた。 こうした政策によって、86年度の伸び率はたいへん高くなった。  その後、1987年度は410ヶ所、88年度は630ヶ所と増加し、89年度には1080ヶ所と1000をこえた。88年度には、厚生省および労働省により「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について」(「福祉ビジョン」とよばれている)が提出されている。そして、翌年には、これに具体的な整備目標を追加し、あらたな具体的施策を盛り込んだ「高齢者保健福祉推進十か年戦略」(通称「ゴールドプラン」)が発表された。そして、在宅老人福祉緊急整備計画が消費税導入との関連で実施されることになり、大幅な運営費の予算化が行われた。こうした国の強力な高齢者保健福祉施策推進の動きをうけて、デイサービス事業は80年代後半から著しい量的発展をみせることになった。90年度は1780ヶ所、91年度は2630ヶ所、92年度は3480ヶ所にまでなっている(厚生の指標.1993)」。  著しい量的な拡大を見せているデイサービス事業であるが、在宅福祉サービスの3本柱の中では、まだ実施率が低い。厚生省のまとめた「平成3年版老人保健福祉マップ数値表」によると、デイサービスを実施している市町村はまだ37%にとどまっており、未実施の市町村が6割以上ある。ショートステイ事業は91%、ホームヘルプ事業は99%の実施率であるから、それに比べるとかなり低い。それでも、翌年度のデイサービス実施率は49.5%まで増加している(ショートステイの実施率は93.9%、ホームヘルプの実施率は99.6%)。 厚生省のコメントによると、「デイサービスは家の近所に施設が必要で整備が遅れている状況にある」ということであるが、人口数の少ない町村ではデイサービス事業の対象となる高齢者の絶対数が少なく、また、地域的に偏在して居住しており、送迎時間の限度等を考慮するとなかなか時業界紙ができないということなのであろう。  また、次のようなことも背景にあると思われる。そうした町村では、虚弱な高齢者でもなんらかの仕事や役割を持っていたりする。また、村のどこかに気心の知れた年より同士が集まって話をする場もあるだろう。一方、寝たり起きたりといった状態になると、年寄りなのだから仕方がないと寝かせきりにさせられてしまう。こうしたことであれば、デイサービスに対するニードはさほど強くならない。デイサービスは後にもみるように、年寄り同士の和やかな雰囲気の場をもつことが困難な都市部の孤立した高齢者に、より必要とされるサービスという性格を基本的にはもっているように思われる。 ・デイサービスセンターのタイプと質的な発展  1989年に行われた国のデイサービス事業実施要綱の改正では、対象を寝たきり老人にも広げることになり、事業内容と利用者の状況によって、センターが3つの型に分類されることになった(痴呆性老人の利用はそれまでにも増加しており、88年度には痴呆性老人加算が制度化されている)。寝たきり老人を含む重介護型のA型、標準型(従来のセンター)のB型、軽介護型のC型である。全国社会福祉協議会高年福祉部が実施した「全国デイサービスセンター実態調査報告書1992年」(以下、「報告書」と略記)によると、90年以後A型とC型の割合が少しずつ増え、標準型のB型のそれが減少している。人口数の小さい町村では、おそらくこのC型のセンター設置が多いと考えられる。  「報告書」によって、センター利用者の日常生活自立度(寝たきり度)をみてみると、やはりA型センターには、ランクB(屋内での生活はなんらかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ)やランクC(一日中ベッドで過ごし、排泄、食事、着替えにおいて介助を要する)が多く、C型センターにランクJ(なんらかの障害等を有するが日常生活はほぼ自立しており独力で外出する)が相対的に多い。また、ぼけ症状ありの人やその程度の重い人はA型センターに多く、C型センターには症状なしの人がほとんどである。数のうえで圧倒的に多いB型センター(従来のセンターはこれにあたる)は、いずれもその中間であるが、おそらく、A型に近いセンターからC型に近いセンターまでいろいろあると想像される。また、開設当初、比較的軽度の介護を要する高齢者を対象としてきたセンター(標準型)が、年数を経るなかで次第に、中度や重度の障害をもつ高齢者や痴呆性老人を対象とするようになってきた例も多く見聞きする。  開設当初はまだデイサービスについての住民の認識が浅く、虚弱高齢者や障害高齢者の利用が定員に満たないため、また、職員の方でも障害の重い高齢者や痴呆性老人のケア(介護だけでなく精神的サポートや家族支援なども含む)に不慣れということもあって、老人クラブに通えるような比較的元気な高齢者も利用者の中に含まれることがある。だが、年数が経つにつれ利用高齢者の機能が徐々に低下していく。それへの対応をとおして、職員も在宅要介護高齢者のケアに慣れ、実力と自信をつけてくる。また、一方で地域住民に次第にデイサービスが理解されるようになってきて、虚弱高齢者、障害高齢者、痴呆性老人の本サービスに対するニードが高くなる。そして、同じ市町村内に新しいC型センターが開設される。そうなると、障害の程度や痴呆性程度の高い新規の利用者を、先行した標準型のセンターがより積極的に引き受けざるを得ないようになってくる(標準型のセンターは特養併設型が大半であって、この併設施設のサービスや諸機能を活用できることからも、こうした傾向は自然である)。  実際、センターの研修会などに参加すると、よく聞かれるのがこの利用者の身体機能および精神機能障害の重度化という問題である。この問題は、職員の労働量の増加と職員配置の増加、職員のケアの質の向上、従来のサービス・プログラムの見直し、設備の整備、送迎のあり方の検討、家族との連絡・調整、保健・医療機関との連携、他の福祉サービスの活用、ケースマネジメントの必要性などなど、種種の課題をもたらしている。「ゴールドプラン」によれば、2001年までにセンターを1万ヶ所設置することになっているから、今後もセンターは増え続ける。だが、その増えるセンターの多くがC型の軽介護型のセンターであれば、7,8年以上の年数を経てきたB型センターの多くは、一層重度の利用者を受け入れていかざるを得ない。重度化に対応していくためには、職員配置の増加を行政に要求していく必要がある。  高齢者の絶対数の多い都市部では、今後もセンターが新しく増設されていく。センターが開設されると、従来からあるセンターとの対象地域の区分け(地域割り)が行われるのが一般的である。そうであれば、今後多く開設されるC型のセンターにおいても、既利用者が重度化した場合、A型センターや重度利用者を引き受けているB型センターの方に代わってもらうとか、重度の高齢者からの希望があればそちらに引き受けてもらうようにする、というわけにはなかなかいかず、みずからのセンターで重度化に対しある程度対応していかなければならないということになる。デイサービスだけでなくショートステイ、ホームヘルプ事業、さらに訪問看護や訪問医療といった在宅保健・医療・福祉サービス、そして住宅対策が発展すればそれだけ、重度の要介護高齢者が在宅で過ごせるようになり、その人々のサービス利用ニードが一層増加していく。したがってデイサービス事業も、重度の要介護高齢者を比較的多く引き受けるセンターがより多く必要になってくると考えられる。デイサービスセンターの量的発展だけが政策目標になるようであれば、職員数のより少ないC型センターの増加がより図られることになろう。だが、それではデイサービスに対するニード全体には応えられない。  この他のデイサービスセンターが抱えるさまざまな問題および課題については、キリがないのでこれ以上は触れない。そこで、次に、1980年代後半以降、著しい量的拡大を示してきたデイサービスの発展の利用者にとっての意義を検討することにしたい。 2. デイサービス発展の利用者にとっての意義 ・高齢者にとって魅力ある福祉サービス  先の「報告書」によると、デイサービスの基本事業の利用登録者の平均は1ヶ所あたり120人である。1992年度は3480ヶ所のセンターが運営されているから、単純に計算すると、全国では92年度に41万7600人の高齢者がデイサービスを利用したことになる。登録者が全員利用したとはいえないかもしれないが、登録者総数にかなり近い数の人々が利用したはずであり、この数は相当なものといえよう。92年度の特養入所定員は17万5381名であるから、大ざっぱにいえば入所者の約2.5倍近くの人が特養に多く併設されているデイサービスセンターに通所したということになる。なお、ショートステイ事業対象人員は30万7224人と多いが、この中には複数回利用の人が多いはずである。  相対的に利用できる人数が大きいということによって、デイサービスの内実が利用者および家族、またその関係者によるパーソナル・コミュニケーションをとおして、地域の虚弱・障害高齢者や家族に徐々に知られるようになってきている。また、デイサービスをとおして他の福祉サービスも身近に感じることが可能となりつつある。福祉サービスが、一部の恵まれない不幸な高齢者に対するものとは限らず、弱ってきたら誰でも利用可能なものであるという認識を広めつつあるという点でも、デイサービスの発展の意義は大きい。  さらに重要な点は、デイサービスが利用高齢者や家族、とりわけ高齢者にとって満足感の強いサービスであるということだ。サービスの内容が同じではないから比較するのもおかしいかもしれないが、デイサービスはショートステイやホームヘルプサービスよりも要介護高齢者に人気のあるサービスである。ショートステイはどちらかといえば、今のところ、家族の都合によって要介護状態にある高齢者が短期入所させられ、ケアを受けるという性格の強いサービスだ。家族に喜ばれるサービスであるのは間違いないが、入所する高齢者が喜ぶサービスであるとは必ずしもいえない。知らないところ、しかも救貧的なイメージをもっている老人ホームには行きたくないという反応が、今の高齢者にはまだ一般的である。もちろん、職員の質の高いケアを受けて喜ぶ高齢者は個々には存在するけれども。 また、ホームヘルプは、現在のところ家事援助型のサービスが多い。生活の面倒を見てくれるのはありがたいし、話を聞いてくれるのはうれしいという高齢者も少なくないであろうが、自分の家に他人が入ってくることにどうしてもなじめないものを感じる高齢者や、ヘルパーが自分に合わないとかその家事援助のやり方が自分の流儀に合わないなどと不満を示す高齢者も少なからずいる。  これらに比べると、デイサービスは利用している多くの高齢者が満足感を示し、できるだけ長く利用したいと希望する。そして、それらの人々から話を聞いて、高齢者本人やその家族はサービスを受けたいと申し込んでくる。都市部のセンターでは利用希望者が多くて、利用日を週2回から1回にしたとか、月2回にしたといった話や、利用期限を設けて利用継続希望者でもいったんは卒業してもらう、比較的自立度の高い利用者にはセンターを卒業して地域につくったセンターの出先機関(サテライト)でミニ・デイ的な集まりに参加してもらう、待機者が待機期間中に機能低下していくのでセンター職員が訪問してデイ活動を行う、といった話をよく聞く。それだけ、高齢者にとって相対的に人気の高いサービスなのである。  利用する高齢者自身が魅力を感じる福祉サービスとして発展してきたことが、デイサービス発展の大きな特徴であるといえるだろう。では、なぜ人気があるのか、利用している高齢者はどういう所に満足感をもっているのか、その点を見ていくことにしよう。そのことによって、虚弱および障害高齢者にとってのデイサービスの意義が明らかになるだろう。 1 1