震災特別番組『ぴーぷるずチャンネル特番−カナダのボランティアリズム−』

第2回:「ボランティア・マネージメント−ボランティアの人事管理とは−」


  1. ヘリテージパーク歴史村

これはヘリテージパーク秋まつりの模様である。白いジャケットを来て、ボランティアたちに話しかけているのは、ヘリテージパークの専任職員でボランティア・コーディネータのドナ・パーマーさんである。ヘリテージパークが生まれて約30年、多くの市民ボランティアがイベントや催しものの運営に参加してきた。当初ボランティアの人集めは、友人同士の口コミで行われてきた。けれども現在では、より組織的に人集めをし、ボランティアの興味や才能が最大限ヘリテージパークの仕事に活かされるように組織的な取り組みが行われるようになってきた。

 

(スタート5:17:37、the volunteeers have to be happy〜)

パーマー「ボランティアの仕事は楽しくなくてはなりません。ボランティアが楽しんで仕事をしてもらえるようにする、そのために職員全員がボランティアを受け入れ、その仕事を感謝し、尊敬の気持ちをもって接するように配慮するのが私の責任です。ボランティアがそれぞれの仕事を理解するとともに、職員の側はボランティアとどのように協働しあえばよいのかを充分に承知する、そのようにしてボランティアが楽しんで仕事をしてもらえる環境を整備するのがボランティア・コーディネータの仕事です。」(〜エンド05:18:11)

 

ボランティアと有給スタッフが共に協力して働く協働関係。それがうまくゆくためには何が必要なのだろう。

 

ヘリテージパークでは、両者がうまく協働できるために、ボランティアもスタッフも原則的には同じ人事管理の体制で臨んでいた。この事情をヘリテージパークの人事部長、シーラ・マックリーンさんにたずねた。

 

 

  1. カルガリー・ジェネラル病院ボランティア・マネージャーのスー・ウッドさん。

 

ボランティアを小さな親切の延長線上で考えがちな私たち取材陣には、ボランティアと人事管理がどうしても結びつかなかった。たとえ頭では「ボランティアとはある種の市民自治」なのだと理解できても。依然として私たちの気持ちの奥には、「ボランティアとはもっとささいな個人の心の持ちようなのではないか」という想いが根強く残っていたからである。そのため取材を進めるにつれて、あまりにもビジネスライクなボランティア人事管理という発想に、私たち取材陣には釈然としない気持ちがつのっていった。

 

前回紹介した病院ボランティアのロバートが働くカルガリー・ジェネラル病院でボランティア人事管理の責任者であるスー・ウッドさんに、この疑問を伝えてみた。

 

 

(スタート23:19:03)

スー「たしかに、あなたの仰るとおりです。ボランティアリズムの本当の意味を考えるなら、愛他的な立場にたって、目の前の人に心から自発的に手を差しのべるということが大切であって、それが組織的に行われるかどうかという必要性は感じられないでしょう。けれども、サービスを受ける人の権利を保証し、サービスを提供する側の責任を考えると、きちんとしたボランティア人事管理の体制をもつことが大切になるのです。」(エンド23:19:31)

 

スー・ウッドさんはカルガリー市内に2カ所あるジェネラル病院のボランティア人事部の部長である。彼女のもとに有給スタッフが5名働いている。この陣容でカルガリー・ジェネラル病院の750名の病院ボランティア・スタッフの人事管理を行っている。

 

 

(スタート23:17:06)

スー「ボランティアリズムが始まったそもそもの時は、とても自発的なものだったと思います。西部カナダというのは農村地帯です。みんなで助け合って暮らすというのが昔から当たり前のことだったのです。ボランティアリズムは現在でも自発的なものです。近所同士での助けあいは至る所で見られます。ボランティア希望者と会うとボランティアをしていますかと聞きます。たいていの人はいいえと答えるのです。でも、お隣の雪かきもついでにすることがありますかだとか、お隣の犬を散歩に連れていったことがありますかだとか、隣が忙しい時に食事を持っていったことがありますかとか聞くと、ええという返事が返ってきます。それが真のボランティアリズム精神だと思います。

 ただ現在ではボランティアをすることが本当に意味があり効果のあるものになるためには、ボランティアを受け入れる器をきちんと用意する必要が出てきたのです。出来るだけたくさんの人たちがボランティアに参加し、ボランティアの持っている能力や経験、技能が最大限に活用されるようにするためには組織的な対応がどうしても必要なのです。もしそのような仕組みがないと、ボランティアは満足感を得られず、また戻ってくることはないでしょう。なぜなら自分たちの時間が最大限に用いられたとは感じないからです。ほかにもっと楽しいことはいくらでもあるのですから。ボランティアをする人たちを動機づけているものは何かがちゃんと組織の上で理解される必要があるのです。ですから、ボランティアを採用する組織にとっても、またボランティアをする側にとってもメリットになるような経営・管理が必要となってきたのです。(エンド23:19:03)

 

ボランティアの無償性や「小さな親切」の精神を強調したところで、実際のボランティアの動機づけを考える上では、ボランティアをすることへの心理的社会的な報酬や励ましが必要だというのである(ロバートが名札につけたピンを見せている映像。続いてお礼の電卓を送るところ。ボランティアの笑顔)。ボランティアを積極的にしようという人たちは、仕事や学業を持ちとても忙しくしている人たちである。その人たちがせっかく時間を割いてボランティアをしても、意味のあることができたと思えなければ、自分の時間が無駄になったと感じるだけなのである。

 

3)カルガリー・ボランティアセンター

 

ここはカルガリー市内中心部のビジネス街。その一角にカルガリーボランティアセンターはあった。事務局長のマーサ・パーカーさんにお話をきいた。パーカーさんは、ボランティア業務や人事の経営・管理にビジネスの世界のマネージメントやマーケティングの手法を大胆に導入するという運動の仕掛け人の一人である。

 

パーカーさんによれば、ボランティアセンターの業務は、1)広報、2)ボランティアのリクルート、3)教育・コンサルテーションの3つの要素から成り立つという。その中でも一番大きな比重をしめるのが、ボランティアリズム、すなわちボランティア活用主義の促進をねらったメディア広報活動である。現在センターが流すボランティア広告は新聞・テレビ・ラジオなど様々なメディアを通じて1週間に30件にのぼるという。

 

広報担当のシャウナ・オグストンさんに、ボランティア広報のメディア戦略についてたずねた。

 

 

立木「広報やPRなどをメディアを通じて行うと大変はお金がかかるのではないですか?」

オグストン「お金はかからないのですよ。そこが私たちの腕の見せ所でもあるのですが、基本的にはテレビや新聞といったメディアにもスポンサーになってもらうのです。放送の電波料や新聞の広告料などを寄付してもらうのです。大量の印刷物の場合ですと、協賛企業から寄付をお願いします。それからポスターなどでは、例えば印刷費が1、000ドルで、私たちの予算が1ドルしかない時には、ポスターに印刷会社のロゴを入れる代わりに999ドルを相手に負担してもらったりします。そのあたりの交渉は、広報担当の腕の見せ所ですね。」

 

センターの2番目の事業は、ボランティア人材をリクルートし、様々な施設や団体とボランティア希望者を結びつける紹介事業である。そこで威力を発揮するのがボランティア・データベースである。センターのコンピュータには市内ボランティア先として1万5千件以上の情報が登録されている。ボランティア希望者は、このデータベースに問い合わせをすれば、好みの地区、希望する時間や活動内容、自分の特技などができるだけ活かされるボランティア先のリストをたちどころに見つけることができるのである。

 

 

人材紹介とあわせてボランティアセンターが重視するのがボランティア・マーケティングである。たとえば自動車会社が小型のスポーツカーの販売戦略を練る場合を例にしてみよう。マーケティングでは、比較的若い層にターゲットをしぼった製品づくりや価格設定、流通方式、広報戦略を考えるだろう。

 

ボランティア活動を市民に売り込む時も、同様の考えをとるというのがボランティア・マーケティングの発想である。まず顧客層を限定した上でその人たちの満足度が高くなるような訴求方法を絞り込む。場合によっては、顧客に受け入れられるサービスを逆に創造する。

 

ボランティア希望者はある意味で消費者なのである。違いは、お金の代わりに、自分の時間を拠出するところだけ。時間を特定の目的のために消費しても、結果として満足感がともなわなければ、くり返しボランティアはしない。

 

では人々は、ボランティアのために時間を消費することで、どのようなものを手に入れるのだろう。

 

「特にガンというのは、多くの人たちや家族にとって無関心ではすまされないものです。私たちは、この病気を撲滅するために市民として何かをしたいという気持ちを持ちます。協会の活動に協力することで、そのような使命に貢献できるのです。それはとても気持ちの良いことです。...conribution.」

 

「私たちが良い気持ちになれるんです。ですから毎年ガン研究のための資金集め活動に協力しているのです。毎年目標額まで募金が集まると、良いことができたと、それも市民の方々と一緒にそのようなことができたんだと、気分も最高になりますね。」

 

一つは社会的な正義や信念を行動に移すという充実感かもしれない。また、人から感謝されるという体験も得られるだろう。ボランティアをすると、その感謝をピンやカードや感謝状といった形で表すことが、カナダでは日常的に行われていた(サンキューカードの映像)。こういったことに加えて、近年カナダで強調されるのはより実利的な利益である。

 

 

人々はボランティアに時間を消費することで、新しい知識や技能や経験を確実に身につけている。1987年のカナダのボランティア全国調査によれば、ボランティアの3分の2は、新しい技能や経験が身に付くことがボランティアの仕事の重要な側面であると答えている。ボランティア組織は、他人の話に親身になって耳を傾けたり、大勢の人々に向かって自分の考えを論理的に説明したり、団体や組織の運営を経験したり、資金の調達の方法を学んだり、環境や社会問題について学んだり、また場合によってはワープロによる文書作成やコンピュータを使った会計管理といった事務的技能の教育や訓練の機会を提供している。このような経験は、学生や専業主婦にとっては将来の就職活動で明らかに有利に働くし、一般の勤労者の場合には昇進や転職の際にその人の付加価値を高めるものとなる。自分の職業の適正を知る良い機会にもなるのである(ボランティアリズム−Volunteersim Building Futures−のパンフレット)。

 

 

  1. ボランティア・マネージメントとは

 

日本でも阪神淡路大震災を機に、ボランティア・コーディネータという仕事の重要性は一般に理解されるようになってきた。このコーディネータとボランティア・マネージメントはどのようにちがうのだろう。マーサー・パーカーさんにそのことをたずねてみた。

 

 

ボランティア・マネージメントとは、社会サービスを実施する団体や組織がボランティア業務やボランティア・スタッフに対して施す人事管理の一連のプロセスである。その目的は、ボランティアを通じて質の高いサービスが利用者に提供されると同時に、ボランティアが金銭面以外の手段を通じて高い職務満足感を持ち続けられるようにすることにある。ボランティアマネージメント、つまりボランティア人事管理とは、効果的で効率的なボランティアサービスの運営を目指して行われる一連の管理業務のことを指しているのである。

 

ボランティア人事管理のプロセス

 

 

ボランティアの人事管理のプロセスは、図のような流れになる。

  1. 計画
  2. ボランティア業務のマニュアル化
  3. ボランティアのリクルート
  4. 希望者との面談と配置の決定
  5. 訓練
  6. 指導・監督(スーパービジョン)
  7. 勤務評価
  8. 論功行賞
  9. 計画全体の評定

  1. 計画の段階では、ボランティアプログラムが目指す目標具体的目的を明確化する。何故、このサービスを団体や組織が提供する必要があるのかは、その団体や組織のそもそもの設立の理念や使命について検討することから始まる。団体の趣旨とボランティア・サービスのめざす目標が一致するならば、具体的な行動目標を設定する。従って目標は、具体的数値化可能達成可能、しかも組織全体の使命と一致したものとして定義することが大切である。そして計画段階の最後に行動計画書を作成する。計画書の中には、「誰が・いつ・どのようにして・どれだけの費用で」ボランティア・プログラムを実施するのかを明記する。

 

 

ボランティア・プログラムの行動目標

具体的

数値化可能

達成可能

組織の使命と一致

 

ボランティア・プログラムの行動計画書

誰が

いつ

どのようにして

どれだけの費用で

 

  1. ボランティア業務の内容についてマニュアルを作ると、仕事の組立てがはっきりするようになる。マニュアルにはボランティアの仕事の肩書き、どのような人たちを対象にした仕事か、誰から指導や監督を受けるか、どの程度の時間や期間の仕事か、仕事を始めるまでにどのような訓練を受けるのか、どのような技能が必要かなどについて明記する。

 

 

  1. ボランティアのリクルートの段階では、ボランティア人材についての充分な市場調査やマーケティングが必要である。それをもとにターゲットを絞り、売り込もうとしているボランティア活動がいかに魅力的であるのかを強調した広報や宣伝活動を展開する。

 

 

  1. ボランティア希望者が現れたら、丁寧に希望者の意見や感情に耳を傾けて、ボランティア希望者が本当に求めているのは何かについて、希望者自身が安心して語れるような雰囲気作りに努める。そのためには対人面接の基本である傾聴面接の技法が大切である。その上で、希望者の欲求に一番あったボランティア業務に配置することが可能となる。

 

 

  1. 事前教育や訓練を施す。相手は未成年ではなく、大人であることを前提にした教育や訓練であることに注意する。

 

 

  1. ボランティア業務の指導・監督にあたっては、ボランティアの人格を尊敬し、サポートしながら、ボランティア自身の長所が引き出されるような接し方をする必要がある。

 

 

  1. ボランティアの期間が終了したら正式に勤務評価を行う。そうすることでボランティアはより一層成長し、次回のボランティアの機会に今回の経験がより効果的に活かされるようになる。

 

 

  1. 論功行賞とは多少堅苦しいけれども、ボランティアの功労を認め感謝を形で表すことは、金銭による動機づけをしないボランティアではとりわけ重要となる。感謝のカードや手紙、ピンや賞状や盾、あるいは感謝の集いといった様々な方法で感謝を形で表すことが行われている。

 

 

9.最後が、計画全体の評定である。これは当初たてた具体的な数値目標がどの程度達成できたかについて客観的な評価ができるようになる。

 

  1. クロージング

 

たしかにボランティアは「無償の行為」である。しかし、その無償性とは、金銭的な報酬が直接には交換されないという意味だけである。ボランティアは行動することを通じて、自分の主義や信念を実現したいという欲求を持つ。また他者から感謝や尊敬を受けたいという気持ちが生まれるのも自然である。さらにボランティア活動は通常の仕事や生活からは得られない新たな体験や知識、技能を身につける社会学習の機会にもなっている。

 

ボランティアは自分自身の時間を拠出する結果として、このような希望や欲求を満足させるのである。その意味では、「ボランティアは消費者」なのである。そして「消費者は王様」である。それがボランティア・マーケティングの考えかたであった。

 

と同時に、「ボランティアによるサービスの利用者もまた消費者」なのである。ボランティアによるサービスを受ける利用者には、消費者として一定水準以上のサービスを受ける権利がある。

 

この両方の消費者の利益をいかにして両立させるのか。この問題に対する一つの回答がボランティア人事管理のシステムなのであった。