災害情報の「情報到達度」向上のための戦略の
開発に関する研究
(課題番号 13480120)
平成13年度〜平成15年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究成果報告書
平成16年3月
研究代表者 立木 茂雄
(同志社大学文学部)
はしがき
本研究をのきっかけは,2000年9月11日・12日に東海地方を襲った集中豪雨災害の調査団の一員として西枇杷島町や新川町へのフィールド調査に参加したことに始まる.自治体職員への聞き取りを進めるにつれて,西枇杷島町および新川町役場には,河川情報や気象情報は当初から伝わっていたものの,その情報が迅速な住民への避難勧告などへのアクションに即座には結びつかず,最終的な避難勧告発令の決め手となったのは,建設省(当時)庄内川工事事務所長からの電話連絡であったことがわかった.この事例は,災害情報のコミュニケーション研究では,伝達内容や伝達手段についての検討以上に,受け手の側に情報が伝達され,受けてが適切な判断を起こせるようにするための情報認知の枠組みが重要であることを示唆した.本研究では,外界に存在する様々な外力に関する情報の中から,自らに危害を及ぼす可能性を探索するために,予め形成しておかなければならない,災害に関する世界理解の枠組み(災害スキーマ)の重要性を検討することを目的とした.
本研究の第1の仮説は,災害スキーマの形成の程度が高い住民ほど,外界に存在するハザード情報からその意味をくみ取ることがたやすいとともに,災害に対する被害抑止や被害軽減の方策についてより積極的な態度や意図を示すであろうし,また実際の行動もおこしているはず,というものであった.この仮説にもとづき,1999年に水害を,2001に芸予地震により被害を受けた広島県呉市の行政,支援者,被災住民の方々へのインタビュー調査を実施し,99年水害時の体験が2001年地震の対応をより効果的にするものとして機能していたことを明らかにした.
本研究の第2の仮説は,災害スキーマの形成の度合いが,被害抑止や被害軽減行動を促進する影響力をもつことは,実証的調査研究でも明らかにできるというものであった.そこで,市内中心部に大きな断層帯が走っているフィリピン・マニラ首都圏マリキナ市の住民を対象とした地震リスクに関する標本調査を実施した.またこの調査と比較する上で,広島県呉市住民にも共通の質問紙調査を行った.調査の結果から,被害抑止・被害軽減に関する行動意図・実際の行動の外生変数として災害スキーマが極めて重要な要素であることが明らかになった.
本研究の第3の仮説は,災害スキーマは行政や関係者や住民自身の努力を通じて促進できる,というものであった.この点を実証するために,フィリピン・マニラ首都圏マリキナ市民を対象としたアクション・リサーチを実施した.具体的には,防災博覧会や,住民公開の場での実物大の家屋破壊実験などを通じて,地震ハザードの理解やその対策が充分にみずからの資源や知識を用いて対処可能であると参加後に人びとが考えるようになった.なお,本研究の第2および第3の研究の実施にあたっては,本科学研究費補助金に加えて,EqTAP(アジア・太平洋地域に適した地震・津波災害軽減化技術の開発とその体系化に関する研究)の林春男教授をチームリーダーとする研究班の研究資金の一部も活用させて頂いた.ここに記し感謝申し上げる次第である.
研究組織
研究代表者:立木 茂雄 (同志社大学文学部 教授)
研究分担者:林 春男 (京都大学防災研究所 教授)
研究分担者:田中 聡 (京都大学防災研究所 助手)
研究分担者:牧 紀男 (防災科学技術研究所フロンティア研究センター
チームリーダー)
研究協力者:堀江 啓 (防災科学技術研究所フロンティア研究センター
研究員)
交付決定額(配分額) (金額単位:千円)
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直接経費 |
間接経費 |
合 計 |
平成13年度 |
5,700 |
0 |
5,700 |
平成14年度 |
4,900 |
0 |
4,900 |
平成15年度 |
2,600 |
0 |
2,600 |
平成16年度 |
|
|
|
総 計 |
13,200 |
0 |
13,200 |
研究発表
(1)学会誌等
|
著 者 名 |
テ ー マ 名 |
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学 会 誌 名 |
巻・号 |
発行年 |
ページ |
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1 |
立木茂雄・林 春男 |
TQM法による市民の生活再建の総括検証−草の根検証と生活再建の鳥瞰図づくり |
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『都市政策』 |
104 |
2 |
0 |
0 |
1 |
123-141 |
||
2 |
立木茂雄 |
ボランティアを「市民力」へ |
||||||
『あした起きてもおかしくない大地震』(イミダス特別編集) |
集英社 |
2 |
0 |
0 |
1 |
82-83 |
||
3 |
林 春男・東田光裕 |
国土防災と情報技術 |
||||||
『土木学会誌』 |
86-3 |
2 |
0 |
0 |
1 |
20-22 |
||
4 |
山下未知子・林 春男 |
効果的な防災教育に向けた防災知識体系化のための基礎的研究−防災知識の意味ネットワーク表現− |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
3 |
2 |
0 |
0 |
1 |
189-198 |
||
5 |
牧紀男・堀江啓・林春男 |
阪神・淡路大震災における建物被害調査結果の分析 |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
3 |
2 |
0 |
0 |
1 |
117-122 |
||
6 |
田中聡・林春男・重川希志依・ 浦田康幸・亀田弘行 |
災害エスノグラフィーをもちいた災害過程における共通構造に関する研究 |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
3 |
2 |
0 |
0 |
1 |
181-188 |
||
7 |
Shigeo Tatsuki & Haruo Hayashi |
Seven critical element model of life recovery : General
linear model analysis of the 2001 Kobe Panel Survey data |
||||||
Proceedings of the 2nd Workshop for
Comparative Study on Urban Earthquake Disaster Mitigation |
|
2 |
0 |
0 |
2 |
27-46 |
||
8 |
堀江啓・牧紀男・重川希志依・ 田中聡・林春男 |
外観目視による建物被災度評価手法の検討:建物被災度判定トレーニングシステムの開発 |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
4 |
2 |
0 |
0 |
2 |
176-174 |
||
9 |
村上則男・川方裕則、林春男・ 高島正典 |
強震観測記録と消防庁被害報告を用いた広域の地震被害推定と被害の及ぶ範囲の同定の手法:2001年芸予地震への適用 |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
4 |
2 |
0 |
0 |
2 |
105-112 |
||
10 |
田中 聡・重川希志依 |
災害エスノグラフィーをもちいた2001年9月11日ニューヨーク世界貿易センタービル災害における災害過程の分析 |
||||||
『地域安全学会論文集』 |
4 |
2 |
0 |
0 |
2 |
221-230 |
||
11 |
Shigeo Tatsuki, Haruo Hayashi, Doracie B. Zelta-Nantes, Michiko Banba,
Koichi Hasegawa, & Keiko Tamura |
The impact of risk perception, disaster schema,
resources, intention, attitude, and norms upon risk aversive behavior among |
||||||
|
2 |
2 |
0 |
0 |
4 |
267-276 |
||
12 |
Kei Horie, Haruo Hayashi, Kenneth Topping, Norio Maki, Michiko Banba, Shigeo Tatsuki, Satoshi
Tanaka, Koichi Hasegawa, Keiko Tamura, Tamiyo Kondou, Yuka Karatani, & Yoshinobu Fukasawa |
Development of earthquake counter measures’
toolbox as a method to increase public awareness |
||||||
|
1 |
2 |
0 |
0 |
4 |
487-498 |
||
13 |
Loading Experiments of non-engineered houses in |
Satpsjo Tanaka, Kaoru Mizukoshi, Tatsuya Ohmori, Kei Horie, Norio Maki, & Haruo
Hayashi |
||||||
|
1 |
2 |
0 |
0 |
4 |
273-281 |
||
(2)口頭発表
1 |
山下未知子・林 春男 |
効果的な防災教育に向けた防災知識体系化のための基礎的研究−防災知識の意味ネットワーク表現− |
第12回地域安全学会, 静岡県防災センター,2001.11 |
||
2 |
牧紀男・堀江啓・林春男 |
阪神・淡路大震災における建物被害調査結果の分析 |
第12回地域安全学会, 静岡県防災センター,2001.11 |
||
3 |
田中聡・林春男・重川希志依・ 浦田康幸・亀田弘行 |
災害エスノグラフィーをもちいた災害過程における共通構造に関する研究 |
第12回地域安全学会, 静岡県防災センター,2001.11 |
||
4 |
Shigeo Tatsuki & Haruo Hayashi |
Seven critical element model of life recovery : General
linear model analysis of the 2001 Kobe Panel Survey data |
The 2nd Workshop for Comparative Study
on Urban Earthquake Disaster Mitigation, 神戸国際会議場, 2002.2 |
||
5 |
堀江啓・牧紀男・重川希志依・ 田中聡・林春男 |
外観目視による建物被災度評価手法の検討:建物被災度判定トレーニングシステムの開発 |
第13回地域安全学会, 静岡県防災センター,2002.11 |
||
6 |
村上則男・川方裕則、林春男・ 高島正典 |
強震観測記録と消防庁被害報告を用いた広域の地震被害推定と被害の及ぶ範囲の同定の手法:2001年芸予地震への適用 |
第13回地域安全学会, 静岡県防災センター,2002.11 |
||
7 |
田中 聡・重川希志依 |
災害エスノグラフィーをもちいた2001年9月11日ニューヨーク世界貿易センタービル災害における災害過程の分析 |
第13回地域安全学会, 静岡県防災センター,2002.11 |
||
8 |
Shigeo Tatsuki, Haruo Hayashi, Doracie B. Zelta-Nantes, Michiko Banba,
Koichi Hasegawa, & Keiko Tamura |
The impact of risk perception, disaster schema,
resources, intention, attitude, and norms upon risk aversive behavior among |
1st Asia Conference on Earthquake
Engineering, Manila |
||
9 |
Kei Horie, Haruo Hayashi, Kenneth Topping, Norio Maki, Michiko Banba, Shigeo Tatsuki, Satoshi
Tanaka, Koichi Hasegawa, Keiko Tamura, Tamiyo Kondou, Yuka Karatani, & Yoshinobu Fukasawa |
Development of earthquake counter measures’
toolbox as a method to increase public awareness |
1st Asia Conference on Earthquake
Engineering, Manila |
||
10 |
Loading Experiments of non-engineered houses in |
Satpsjo Tanaka, Kaoru Mizukoshi, Tatsuya Ohmori, Kei Horie, Norio Maki, & Haruo
Hayashi |
1st Asia Conference on Earthquake
Engineering, Manila |
(3)出版物
|
著 者 名 |
出 版 社 |
|||||
書 名 |
発行年 |
総ページ数 |
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1 |
D.F.ジャーマン著 (立木茂雄 監訳) |
萌書房 |
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民主主義の文法−市民社会組織のためのロバート議事規則入門− |
2 |
0 |
0 |
2 |
142 |
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