「家族の新世紀」『家族心理学会ニュースレター』20003月(関西学院大学社会学部 立木茂雄)(当時)



 21世紀は超変化社会。それは超ストレス社会であるかもしれない。変化がもたらすストレスを和らげる前線基地が家族。より意識的に、そして主体的に「家族をする」姿勢が大切になるだろう。そのためには、家族の中の親・子それぞれが独立した人格であることを認めながら、同時にそれぞれがバランスよくつながることで、支え合い、成長をうながす力が必要なのだと思う。

 21世紀のもう一つの課題は市民社会の創生。その基礎を育むのも家族だ。環境問題や地域の福祉や生活の問題は、政府・行政の力だけでも、企業活動だけでも解決されない。生活の隅々までも行政に任せきると、「大きな政府」を維持することが必要になり、そのためのコスト(税金)は莫大なものになる。一方、効率だけを優先させる企業活動では、弱者切り捨てとなって共生は実現されない。市民一人ひとりが、地域の主人公意識を回復し、自己責任や自己決定の力を高め、自分たちのくらしをより良いものにするために率先して取り組んでいく力(それを私は最近「市民力」と呼んでいる)が大切になっていく。

 家族の中で、互いを信頼するという体験を十分に積むこと。その体験を通じてわたしたちは他者との間に社会的な信頼を結ぶことができるようになる。そして、他者との信頼を通じて、自らが自らのくらしの主人公であるという自律意識や、共通の課題の実現のために他者と協力する連帯意識が育まれる。家族のきずなやかじとりのバランスを基盤としてこそ、自律と連帯に根ざしたつながりを他者との間に築くことが可能となり、ひいては市民が日常的に公共性を紡ぎだす社会が実現されていくのだと思う。